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ヘルスケア最新情報TOPIX「介護編」 2019.7月号


「介護サービスの需要予測と雇用管理の確認ポイント」

 今月号では、厚労省の公表資料を参考に「Ⅰ.介護経営に関わる将来的な介護サービスの需要予測」と「Ⅱ.人材確保に不可欠な好循環の仕組みとチェックポイント」を整理していきます。

 政府により、特定処遇改善加算の創設や外国人介護労働の拡大、介護ロボットの推進など、多岐に亘る施策が盛り込まれる中、介護事業所等では、介護経営に関わる将来的な介護サービスの需要予測を客観的に受け止めて、身の丈に合った対策を選択していくことがポイントになります。

【確認keyword】
「介護サービスの需要予測」「介護報酬のさらなる適正化」「高齢者増加の地域偏在化」「人材確保の仕組み」「雇用管理のチェックポイント」「生産性向上や人材確保の選択肢」

[Ⅰ]介護経営に関わる将来的な介護サービスの需要予測

■今後の介護サービスの需要見込み

 厚労省が示した「第7期介護保険事業計画におけるサービス量等の見込み」は、今後の介護サービスの需要に直結する推計値であり、後期高齢者の増加に伴いながら、すべてのサービスにおいて2025年度に向けて需要が拡大していく見込みとなっています(下図)。

第7期介護保険事業計画におけるサービス量等の見込み

 介護サービス事業者等において、市場拡大を示すこの数値は喜ばしい反面、社会保障財源の枯渇による介護報酬のさらなる適正化や、事業拡大のチャンスがありながら人材確保ができなければ事業を拡げられない点が懸念されています。さらに人口推計によれば、高齢者の割合や数(量)に地域偏在の拡大(地域差)が見られることから、全国一律に介護サービスの需要が拡大していく訳ではない点に留意しなければなりません。

■地域別の高齢者の割合と増加数

 総人口に占める高齢者の割合は、大都市圏や人口の多い地方都市を中心に全国平均(点線)を下回り、それ以外が平均よりも高くなっていくと見込まれています(下図)。

都道府県別の高齢化の状況(総人口に占める高齢者の割合の変化)

 一方、高齢者数は全都道府県で増加するものの、増加幅は大都市圏や人口の多い地方都市で高く、これがサービス量の拡大が見込まれるエリアになると推察されます(下図)。

都道府県別の高齢化の状況(高齢者の増加数)

[Ⅱ]人材確保に不可欠な好循環の仕組みとチェックポイント

 エリア別の介護サービスの需要予測を踏まえ、ここでは厚労省の「人材確保のための雇用管理改善促進事業(2017 年度厚労省委託事業)」で整理された人材確保の考え方やその仕組みを参考にしながら、人材確保や雇用安定に向けたポイントを整理します。

■人手不足や離職の問題を紐解く人材確保の仕組み

 人手不足の介護現場では、「職員の採用がうまくいかない」「職員が定着せず離職してしまう」など、人材確保に関する問題を抱えている事業所が数多く存在します。問題を抱えたままの雇用管理では【採用管理】や【定着管理】のマネジメントが十分でなく、悪循環となってしまう傾向があるため、特に注意しなければなりません。

 【採用管理】は「①募集」と「②選考」、【定着管理】は「③配置・配属」「④評価・処遇」「⑤教育訓練・能力開発」に分類され、人材確保を進める第一歩として、まずは【採用管理】と【定着管理】の各取り組みに改善の余地がないかを再考することが大切です。そして、人材確保を進めるには【採用管理】と【定着管理】の次に、【就労条件】に係る「⑥労働条件」「⑦労働環境」「⑧人間関係」「⑨福利厚生」についても、改善の余地がないかどうかを考えてみることが重要です。【就労条件】が整い、職員が働きやすく働きがいがある職場であれば、採用も順調で職員の定着率も高まり、好循環が生まれます。

 さらに、人材確保の問題を突き詰めて考えていくと、最終的には企業の【理念・価値観】の問題まで行き着きます。つまり、【採用管理】【定着管理】【就労条件】という要素の根底には【理念・価値観】があり、「⑩経営理念」や「⑪組織文化」が職場の働きやすさ・働きがい、あるいは企業の採用力・人材の定着に繋がります。「⑩経営理念」や「⑪組織文化」を考えることによって、企業の採用力や人材の定着をより確実なものとすることができ、これらを好循環させる仕組みが人材確保に不可欠だといえるでしょう(下図)。

人材確保の仕組み

■人材確保に向けた現状チェックと各ポイント

 まずは、事業所が抱える雇用管理の課題を明らかにするために、チェック表を活用して各テーマの現状を確認していきましょう(下表)。

人材確保の仕組み

 次に各ポイントを整理します。【採用管理】では新規の求人ルートの開拓として、求人方法や媒体などを見直すことが重要です。【定着管理】では特に若い職員の場合、同年代の職員との交流を持てないと早期離職してしまう傾向があり、採用者を貴重な人材として大切に受け入れる周囲の配慮と就労環境の整備が大切になります。職員に長く活躍してもらうためには、事業所が求める人材を募集・採用し、活躍できる環境に配属させることが重要であり、【採用管理】と【定着管理】の連動性を持たせることが不可欠です。

 【就労条件】は人材の安定的な確保に向けた就労環境の整備を進めるうえで、鍵を握ります。10 月に創設される「特定処遇改善加算」の取得要件にも関連するため、将来展望を持てるキャリアパスや納得性のある人事評価制度、職員自身が成長していると実感できる体制づくりが肝要です。ただし、求人募集をする際、求職者にとって魅力となるのは労働条件や環境などの【就労条件】が重視される傾向があるものの、長期的な視点では育成や評価・処遇等のキャリアパス、さらには事業所の【理念・価値観】の共有が定着の重要な要素となります。つまり、経営者のビジョンや経営方針を発信し、帰属意識や連帯感のある組織文化の醸成が人材確保の根幹として不可欠だといえるでしょう。

■生産性向上や人材確保に向けた様々な選択肢の活用

 介護現場では即戦力となるキャリア採用の競争率が高いため、これ以外の生産性向上や人材確保などの様々な選択肢が設けられています。生産性向上の手立ては【環境改善】と【資質の向上】を図り、介護人材の確保では【参入促進】による三位一体の改革が推進されています。【環境改善】では「働き方改革」をはじめ「ICTや介護ロボットの活用」が推進され、【資質の向上】では「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」や「特定処遇改善加算の創設」により推進されています。そして【参入促進】ではマンパワー不足を補う「外国人労働の活用」や「若年層・高齢者の雇用拡大」など、裾野を拡げた労働力の確保が重点化されています。介護事業所等では、すべての事業者においてすべての対策が必要ではなく、エリアや現場の各状況に応じて、地域医療介護総合確保基金や各種補助金などをバランスよく活用して取り組みを加速していくことが大切です。

▼今月号の考察

 今回は、介護経営に関わる将来的な介護サービスの需要予測と介護人材確保対策のポイントを整理しました。とりわけ需要拡大が見込まれる大都市圏においては、特定処遇改善加算や外国人労働の活用、介護ロボット導入などの選択肢を活用することが重要なポイントになります。その他のエリアでは、まずは足元の労務全般の問題点を解決して労働環境を整備していくことが最優先事項となり、それが職員の働き方に直結し、働き方改革の推進にも寄与できるでしょう。以上、経営戦略や雇用管理の一助として、今後の取り組みに少しでもお役立て頂ければ幸いです。

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