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ヘルスケア最新情報TOPIX「介護編」 2020.03月号


「介護保険制度改革に向けたICT 導入支援策の方向性」

 今月号では、全国厚生労働関係部局長会議において示された2021 年度介護保険制度改革に向けた2020 年度の地域医療介護総合確保基金の予算案を踏まえ、「Ⅰ.地域共生社会の実現に向けたICT 基盤整備の位置づけ」を確認し、「Ⅱ.介護分野におけるICT 導入の重要性と支援の方向性」について整理していきます。2040 年を見据えた「地域共生社会」の実現を目指す中、次期介護保険制度改革において不可欠なICT 活用に関する最新動向として、ご参考にして頂ければ幸いです。

【確認keyword】
「2020年度地域医療介護総合確保基金の予算」「科学的介護の実現とICT基盤の整備」「文書に係る負担軽減の方策」「事業規模に応じたICT導入支援」「介護ロボットの導入支援」

[Ⅰ]地域共生社会の実現に向けたICT 基盤整備の位置づけ

 2025年まで残り5年と迫り、地域包括ケアシステムの構築などが順調に進む中、今般では2040年に着目した制度改革へとシフトしてきた点に留意しなければなりません。地域包括ケアシステムの構築は「地域共生社会」の実現に向けた重要な通過点であると理解することがポイントであり、2021年度の介護保険制度改革に向けて各テーマが設定されています(下図)。2020年度の「地域医療介護総合確保基金(以下、基金に略)」における予算配分では、介護予防や地域づくりの制度化が進められる中、介護現場の課題である人材確保や生産性向上について、引き続き重点化される点が特徴的となっています。介護事業所等では「科学的介護」の実現に向けて、人材確保や生産性向上に寄与するICT基盤の整備が推進されている点を再認識し、準備や対策を練っていくことが大切です。

[Ⅱ]介護分野におけるICT導入の重要性と支援の方向性

■ ICT 導入が不可欠な2 つの理由「科学的介護」&「文書負担軽減」

 2020 年度の基金における予算配分において、ICT 導入や介護ロボットの導入支援が拡充された理由は、「科学的介護」の実現に不可欠なICT 基盤の整備として重要性が高いからです。「科学的介護」に関わるデータの種類は「介護保険総合データベース(以下、介護DB に略)」、「VISIT(ビジット)」、「CHASE(チェイス)」の3 つが設計され、いずれも介護事業所等の負担を考慮し、電子化して収集・提出しやすい項目が選定されています。

 「介護DB」は、介護サービスの利用実態、要介護認定者の健康状態による必要な介護サービスの実態等を把握するための電子化した介護保険レセプトデータと要介護認定データを統合したデータベースであり、2018 年度にデータ提供が義務化されました。「VISIT」は、通所・訪問リハビリのデータ収集事業として、各リハビリにおける計画書及びプロセス管理表のデータを蓄積するために設計され、2018 年度介護報酬改定においてリハビリマネジメント加算(Ⅳ)を新設して評価が開始されました。これに対し、「CHASE」は、介護保険サービス全般の提供内容と利用者に関する心身状態の変化・改善の関係性のデータを収集し、サービスの質や効果のエビデンス(科学的裏付け)を蓄積していく計画であり、2020 年度から本格運用が予定されています(下図)。

 そして、データベースを構築して解析が進むことで、介護事業者のパフォーマンスの良し悪しは介護報酬上のアウトカム評価と保険者に対する評価(財政的インセンティブ)に反映される計画となっています。さらにデータ解析の結果次第では、介護報酬上の評価だけでなく、例えば人員基準の緩和など、各サービスの基準見直しを図る裏付けとして将来的に用いられる可能性がある点も押さえておきたいポイントです。また、科学的介護の実現では、介護ロボットの開発による深刻な人手不足を補うことが期待され、人材確保の取り組みと並行して戦略的に導入検討を進めていくことが大切です。

 介護事業者におけるICT 化対応の取り組みは、利用者のQOL に直結し、社会資源となる介護データを取扱う重要性を再認識しなければなりません。単なるシステムや機器の導入で片付けられる話ではなく、介護のICT 化やロボット等の推進により、介護現場の生産性向上や働き方改革の推進の一翼として活用していく視点で導入を判断するとよいでしょう。そして、データベースの構築により懸念される事項は、現場の人員配置やレセプト請求の実態が見える化される点です。精度の高い解析により、機械的にイレギュラー値をはじき出すことが容易になれば、これまで以上に不正請求などの感度が高まり、特に労務や法務の監視が厳しくなるため、コンプライアンスの徹底が重要になります。

 なお、働き方改革は介護従事者のみならず、都道府県・市区町村の担当者に対しても遂行していく必要があり、そのために介護分野の文書に係る負担軽減の方策が必要とされている側面があります。指定申請・報酬請求・指導監査の3分野における「簡素化」「標準化」「ICT等の活用」の各取組の推進(下図)は、「保険者機能強化推進交付金(自治体への財政的インセンティブ)」に連動して文書負担軽減を後押しする予定であり、介護事業所の運営面だけでなく、自治体の財政にも関与する点に留意していきましょう。

■ ICT 導入支援事業の概要

 2020年度の基金における「ICT導入支援事業」の目的は、介護事業所における業務の効率化を通じてヘルパー等の負担軽減を図り、利用者に向き合う時間を確保することにより、利用者に対して質の高いサービスを効率的に提供することです。介護分野におけるICT化を抜本的に進めるため、ICTを活用して介護記録から請求業務までが原則一気通貫で行うことができるよう、すべての介護保険サービスが対象となっています。

 今回の注目点は、前年度の30万円上限の補助金に対し、2020年度では事業所規模に応じて職員10人まで50万円、20人まで80万円、30人まで100万円、職員31人以上で130万円と上限額が大幅に増額されたことです。具体的な補助対象は介護ソフト及びタブレット端末等のハードだけでなく、導入関連費用の一部も助成されます(下図)。ICT化への対応は介護事業所における喫緊の課題であり、スタッフの働き方の改善のみならず、業務プロセスの見直しや再構築するキッカケとして活用していけるでしょう。

➢ 補助対象経費・ソフト(購入またはリース)

ソフトウェア(開発基盤のみは対象外)、クラウドサービス、改修経費(標準仕様対応、CHASE対応)、保守・サポート費、導入設定、セキュリティ対策、タブレット端末やスマートフォンなどのハード、インカム、導入研修、ICT導入に関する他事業者からの照会等に応じた場合の経費等

➢ 要件等

記録業務、情報共有業務、請求業務までが一気通貫となること、ケアマネ事業所との情報連携に際して標準仕様を活用すること、CHASEによる情報収集に対応すること、ICT導入に関する他事業者からの照会等に応じること、導入効果を報告すること、都道府県における導入事業所の公表等

 

■ 介護ロボットの導入支援の概要

 今般、AIやセンシング技術の開発が進み、科学的介護に係る様々なソリューションが多様化し、働き方改革への対応を契機に、ICT関連のインフラ整備の必要性が高まってきたといえます。介護ロボットの普及に向けた2020年度の基金における支援では、介護施設等に対する介護ロボットの導入支援が拡充され、補助限度台数は利用定員の1割から2割へ、見守りセンサーの導入に伴う通信環境整備に係る経費に限っては上限が150万円に増額される予定です(下図)。導入検討の際、厚労省が2018年度に策定した「介護ロボットの効果的な活用のための手引き」を参照すれば様々な活用法が参考になるでしょう。

 介護現場では、介護ロボットなどのテクノロジーを用いることは、職員の身体的負担や精神的負担の軽減につながり、介護現場にゆとりの時間を生み、利用者と介護者の触れ合う時間や利用者の安心感を増やす効果がある点を認識し、機器選定においては補助金ありきではなく、導入目的や生産性向上などの評価指標が重要な決め手になります。

▼今月号の考察

 今回は、2021 年度介護保険制度改革に向けた2020 年度地域医療介護総合確保基金の予算案を踏まえ、ICT 導入支援の最新動向を整理しました。ICT 化への対応は介護事業所における喫緊の課題であり、データヘルス改革や働き方改革に関与する点を再認識し、制度改正による環境変化を追い風に体制を強化していくことが重要です。以上、今後の運営の一助としてお役立て頂ければ幸いです。

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