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ヘルスケア最新情報TOPIX「介護編」 2020.11月号


「介護事業所等における感染症発生時の対応ポイント」

 今月号では、介護現場で必要な感染症の知識や対応方法など、介護現場における感染対策力の向上を目的として作成された『介護現場における感染対策の手引き 第1 版(2020 年10 月)』を参考に、「Ⅰ.介護事業所や介護施設における感染症発生時の基本事項」を整理し、「Ⅱ.感染症発生時の各サービス類型の対応フローとポイント」について確認していきます。
 利用者にとって介護サービスは命綱であり、事業所等が休業すると一人で入浴や食事ができない方が多いという実情があり、感染に伴う休業に限らず災害時においても、緊急時に高齢者が生活機能を失わない代替策の確保が必要です。介護現場が感染媒介の現場にならないよう、感染対策を再確認しつつ、感染者が発生した場合に感染を拡大させない対策を強化していきましょう。

【確認keyword】
「感染防止の基本事項と感染症発生時の対応の全体像」「感染拡大防止の取り組みポイント」「施設・通所・訪問の各サービス類型の特性を踏まえた感染症発生時の対応フローとポイント」

[Ⅰ]介護事業所や介護施設における感染症発生時の基本事項

■ 感染防止の基本事項と発生時の対応ポイント、取り組みの全体像

 介護事業所や介護施設では、感染症に対する抵抗力が弱い高齢者等が多いため、介護現場は他業種よりも感染が拡がりやすい状況にあります。介護事業所等では、平常時からスタッフ自身の健康管理や感染予防はもとより、感染症発生時には感染拡大防止の迅速かつ適切な対応を図らなければなりません。発生時には「①情報共有・報告」「②消毒・清掃」「③積極的疫学調査への協力」が不可欠である点を押さえておきましょう(下図)。

■ 介護事業所・介護施設における感染拡大防止の取り組みポイント

 新型コロナウイルス感染症は、無症状病原体保有者からも感染が起こることが明らかとなり、介護現場では完全な感染予防が非常に難しく、苦境にたたされています。感染症は病原体(感染源)を持ち込まなければ感染が拡がることはありませんので、スタッフ自身が感染症を媒介しないよう、病原体を施設内や利用者宅に「持ち込まない」、外部に「持ち出さない」点に留意していけば必要以上の心配はいらないと言えます。

 スタッフを媒介した感染拡大の背景には、発熱等の症状があるにも関わらず、人手不足で周りに迷惑を掛けないように気遣う無理な出勤も少なからずあるようです。こうした感染拡大のリスクの高い行動を是正するためには、感染拡大防止の特例として「介護サービスの人員基準等の臨時的な取扱い」において、人員基準の柔軟な対応が可能である旨をスタッフに事前に周知しておくことで、感染の疑いがある状態での出勤を抑止できるでしょう。そして、スタッフの感染等により人材不足に陥る場合があることを想定し、連携する法人や関係団体への協力要請などを通じて、介護スタッフ等の応援が確保できるかを事前に確認しておけば安心です。

 そして、どんなに万全な感染対策を実施しても人の行き交いがある以上、感染者が出る可能性をゼロにすることはできません。こうした現実を受け止め、感染者が出てから慌てることのないよう感染症発生時の対応を事前に想定しておくことが、感染拡大を最小限に留める重要なポイントになります。介護施設・事業所において感染症または食中毒が発生した場合や、それが疑われる状況が生じた場合には「①情報共有・報告」「②消毒・清掃」「③積極的疫学調査への協力」が求められ、初動がとても大切になります。

 感染症発生時の対応では、感染状況を把握して二次感染を防止することが最優先事項であり、その際、感染者の状況やそれぞれに応じた措置等の記録を残す必要があります。記録は事業所内の利用者とスタッフの健康状態(症状の有無)や、発生した場所毎(居室やユニット等)に記録をまとめておくことで「感染が疑われる者」や「濃厚接触者」の特定もしやすくなります。そして、事態が発生した場合に、速やかに情報共有や対応ができるよう、事前に体制を整えるとともに日頃からの訓練が不可欠です。次ページ以降では、施設系サービスは「利用者が集団で生活する場」である点、通所系サービスは「通い・送迎」が伴う点、訪問系サービスは「利用者宅を訪問」する点といった各サービス類型の特性を踏まえた感染症発生時の対応について、ポイントを確認していきます。

 なお、今回、参考にした「介護現場における感染対策の手引き 第1版」は、介護スタッフ等が感染症の重症化リスクが高い高齢者に対して、介護サービスを安全かつ継続的に提供するため、さらにはスタッフ自身の健康を守るため、感染対策の知識を習得して実践できるよう、基礎的な情報から感染症発生時のサービス提供の注意点などが掲載されています。そして、スタッフのみならず、管理者等が感染管理体制を整備するために必要な基礎的な情報から感染管理体制の在り方および感染症発生時の対応等についても掲載されているため、介護現場に携わるすべての方々が参考にできる内容です。本編のレポートの内容は一部の要約に過ぎないため、各位の手引書のご確認が必要になります。

[Ⅱ]感染症発生時の各サービス類型の対応フローとポイント

■ 施設系サービスにおける感染症発生時の対応フローとポイント

 施設長や管理者は、いざ感染症が発生すると、混乱の中で「どこに・何を」連絡してよいか分からなくなる場合があります。そのため、感染症発生時の対応フロー(下図)を把握し、あらかじめ連絡先一覧を作成しておくことや、日頃から保健所の担当者と情報交換を行うことが重要な取り組みになります。感染症発生時には、医師の診断結果やスタッフからの報告等の情報により、全体の「①発生状況を把握」しつつ、協力医療機関や身近な医師等と連携して「②感染拡大の防止」や「③医療処置」のための行動に移ります。施設系サービスでは、ゾーニングによる清潔区域と汚染区域のエリア分けが特に重要になります。スタッフが不足すると様々な仕事の掛け持ちになりがちですが、ゾーニングのエリアを明確にして、決められた人がケアをすることやガウンなど汚染された物品の着脱・廃棄は決められたエリアで行うなどの徹底が、二次感染を防ぐ手立てとして有効です。発生状況が一定の条件を満たした場合には「④行政に報告」するとともに「⑤医療機関と連携」をとります。スタッフは、体調が急変する場合を想定して、すべての利用者の健康管理に目配りを行い、自己管理にも注意を払わなければなりません。

■ 通所系サービスにおける感染症発生時の対応フローとポイント

 特に、介護施設・事業所において流行を起こしやすい感染症は、多くの場合、主に介護施設・事業所の外で感染が起こり、介護施設・事業所内に持ち込まれています。多数の利用者が集う通所系サービスは、病原体(感染源)を事業所内に「持ち込む」ことや、外部に「持ち出す」可能性が高く、施設系サービスよりも感染リスクが高いといえます。そして、病原体が事業所内に拡大すれば、クラスターが発生しやすいことから、利用者の利用控えが他サービスよりも比較的多くなっている傾向が見受けられます。

 通所系サービスにおける感染症発生時の対応フローは、施設系サービス同様に、医師の診断結果やスタッフからの報告等の情報により、全体の「①発生状況を把握」しつつ、利用者のかかりつけ医等と連携して「②感染拡大の防止」や「③医療処置」のための行動に移ります。発生状況が一定の条件を満たした場合には「④行政に報告」するとともに「⑤医療機関と連携」をとります。スタッフは、体調が急変する場合を想定して、すべての利用者の健康管理に目配りを行い、自己管理にも注意を払わなければなりません。なお、通所系サービスの利用者が「濃厚接触者」となった場合には、原則自宅等での健康管理を行う必要がありますので、サービス提供を控え、訪問による代替サービスを提供する等の対応が必要になるため、代替サービスを事前に想定しておくことも重要です。

■ 訪問系サービスにおける感染症発生時の対応フローとポイント

 訪問系サービスにおける感染症発生時の対応フローは、施設系や通所系と異なり、施設・事業所内の感染ではないため、利用者が感染した場合にはサービスを提供したスタッフの行動歴とその後の対応が感染拡大を防ぐポイントになります。そのスタッフが「感染が疑われる者」になるか、あるいは「濃厚接触者」か否かは、感染者との接触状況による判断やPCR 検査による医師の診断となることから保健所等への確認が不可欠であり、自己判断は禁物です。感染した利用者が独居であったり、身近に親族がいない場合には、ケアマネジャーやかかりつけ医等と相談し、その後の対応を検討していかなければなりません。訪問系サービスは、今般の感染蔓延の影響により人との接触が難しくなる中、孤立しがちな高齢者に対する見守りや支援等の重要な役割がある点を再認識していくことが大切であり、サービスを維持していくためには感染予防の徹底が欠かせません。

▼今月号の考察

 今回は「介護現場における感染対策の手引き 第1 版」を参考に、感染症発生時の対応フローなどのポイントを確認しました。介護現場では日頃からの感染予防の徹底が図られている結果、感染拡大が抑制でき、スタッフ一人ひとりの感染対策の意識づけが奏功しているといえますが、各サービス類型の特性の再確認として、今後の取り組みの強化にご活用いただければ幸いです。

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