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ヘルスケア最新情報TOPIX「介護編」 2020.12月号


「介護事業経営実態調査結果と2021 年度改定の方向性」

 今月号では、2021 年度介護報酬改定に向けた審議動向を踏まえ、「Ⅰ. 介護事業経営実態調査における収支差率と収支単価」を確認し、「Ⅱ. 2021 年度介護報酬改定の方向性と審議のトピックス」について整理していきます。
 2021 年度介護報酬改定を4 月に控え、介護事業者は実態調査の収支単価を経営状況の比較として参考にしつつ、改定の方向性やトッピクスを踏まえて対応策を検討していくことが重要です。

【確認keyword】
「運営基準に感染症や災害への対応力強化を追加」「ACP推進に係る看取り評価の見直し」「VISIT・CHASEのデータ提出に対する加算の創設」「見守りセンサー導入の要件緩和と拡大」

[Ⅰ]介護事業経営実態調査における収支差率と収支単価

 まず、令和2 年度介護事業経営実態調査の結果を確認すると、前年度の概況調査よりも収支差率は0.7 ポイント下がり、全サービス平均の収支差率は2.4%となりました(下図)。収支差率は改定率や改定内容を決めるうえでの重要な判断指標となります。今回の調査結果において、単体の収支差率(2.4%)ではなく、特別損失である「事業所から本部への繰入」を除いた収支差率(3.9%)が、中小企業の水準(2.9%)を超える経営状況であったため、プラス改定が不安視される懸念材料の1 つとなっています。

 次期改定の全体的な審議においては、2021 年度はコロナ禍での初めての報酬改定となり、国民負担増を伴うプラス改定をすべき事情ではないとの指摘がある一方で、感染対策を一時的な補助金ではなく基本報酬に組み込む必要性も訴えられる等の攻防が繰り広げられ、改定率は12 月末の予算編成で政治判断により決定される見通しとなっています。

 介護事業者は改定率に一喜一憂することなく、目の前のコロナ禍における利用者の動向や収支の変化に着目し、経営改善の糸口を見つけ出すことが重要です。そこで参考になるのが各介護サービスにおける収支単価(下図)であり、自法人の経営状況と比較していきましょう。収支単価の全体的な特徴としては、収入に対して給与費の割合が高いサービスほど支出単価も伸びる傾向があり、支出単価が伸びた要因は人材確保や介護職員処遇改善加算等による人件費の高騰が考えられる結果となっています。

[Ⅱ]2021 年度介護報酬改定の方向性と審議のトピックス

 2021年度介護報酬改定の方向性は、改定の基本的視点として5つのテーマが設定され、新型コロナ対策に関わる【①感染症や災害への対応力強化】以外は、前回改定を踏襲した制度的な課題が整理されています(下図)。以下、各項目における審議動向を踏まえながら、次期改定のポイントとなりそうなトピックスを確認していきます。

【①感染症や災害への対応力強化】のトピックス

 今般、新型コロナウイルス感染症や大規模災害が発生する中で、感染症や災害への対応力強化を図っていく必要性が増してきました。介護サービス事業者に対し、感染症の発生及びまん延等に関する取り組みの徹底を求める観点から、一定の経過措置を設けながら「運営基準」に業務継続に向けた計画等の策定や指針の整備、委員会の開催、研修の定期的な実施および訓練の実施を組み込むことが検討されています。非常災害対策が求められる施設系、通所系、居住系サービス事業者においては、災害訓練の実施等に当たって地域住民との連携に努めることを求めることも検討されている状況です。

【②地域包括ケアシステムの推進】のトピックス

 2025 年さらにはその先の2040 年を展望すると、中重度の要介護者や認知症利用者の増加など介護ニーズが増大・多様化し、その状況は地域毎に異なります。こうした中で、国民一人ひとりが住み慣れた地域で安心して暮らし続けられる仕組みとして、各地域の特性に応じた「地域包括ケアシステム」を推進していく必要性が高まり、次期改定においても引き続き重視されています。医療ニーズの高い看取り期における本人・家族との十分な話し合いに基づく取り組みを促進する観点から、看取りやターミナルケアに関する加算要件と基本報酬において「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の内容に沿った取り組みを評価に追加することが検討されています。関係サービスではACP の推進が不可欠になる点に注視していかなければなりません。

【③自立支援・重度化防止の取り組みの推進】のトピックス

 高齢者の自立支援と重度化防止に資する介護サービスの提供を目指し、昨今ではサービスの質の評価や科学的介護の実現のための環境整備が推進されています。質の高いサービス提供を推進していくうえでの介護関連データベースの整備として、2017 年度からリハビリテーションに関するVISIT 情報を、2020 年度からは高齢者の状態やケアの内容等のCHASE 情報の収集・分析が進められています。

 2021 年度以降は、VISIT・CHASE を一体的に運用する予定(下図)であり、介護記録ソフトとのデータ連携等によりデータ入力に係る現場の負担軽減も図りつつ、VISIT・CHASEのデータ提出に対するインセンティブとして加算を設けて、VISIT・CHASE の取り組みを促進していくことが検討されています。例えば【⑤制度の安定性・持続可能性の確保】にも関与する「リハビリテーションマネジメント加算」の区分を整理して、VISIT・CHASEへのデータ提供を新たな算定要件にする検討も具体的に進められています。

 介護事業者においては、ICT 対応が利用者のQOL に直結し、社会資源となる介護データを取扱う重要性が増してきた点を再認識しなければなりません。介護現場の生産性向上や働き方改革の推進の一翼として、積極的に参画・運用していくことが大切です。

【④介護人材の確保・介護現場の革新】のトピックス

 今後、介護ニーズが増大する一方で、その担い手である介護人材の減少が顕著となっていくことが懸念されています。その対策として、総合的な介護人材確保対策や介護現場の革新の取り組みを一層進めていくため、見守りセンサーやインカム、記録ソフト等のICT、移乗支援機器や排泄支援機器等の介護ロボット等のテクノロジーの活用が促進されています。効果的な促進策としてICT や介護ロボットの補助金により、現場での導入支援のみならず、生産性向上によるケアの質向上に着目した検証が行われてきました。

 注目ポイントは、見守りセンサーやインカム等のICT を活用した場合の夜勤職員配置加算における実証結果を踏まえ、見守りセンサーの入所者に占める導入割合の要件を緩和する(現行15%を10%とする)とともに、全ての入所者について見守りセンサーを導入した場合の新たな要件区分を設けることが検討されている点です(下図)。さらには、既存の介護老人福祉施設及び短期入所生活介護だけの評価でなく、介護老人保健施設、介護医療院及び認知症対応型共同生活介護にも対象を拡大することが検討されています。

【⑤制度の安定性・持続可能性の確保】のトピックス

 介護に要する費用は増加傾向にあるため、必要なサービスを確保して適正化・重点化を図り、制度の安定性・持続可能性を高めていく必要性が高まっています。次期改定では、利用者負担にも関わる「区分支給限度基準額の計算方法」の見直し、算定率の高い加算の基本報酬への包括化、算定率の低い加算の要件緩和や類似する加算への統合など、複雑化してきた加算の整理が図られる見通しとなっている点に注視していきましょう。

▼今月号の考察

 今回は2021 年度介護報酬改定に向けた審議動向を踏まえ、介護事業経営実態調査における収支差率および収支単価、改定の方向性や審議のトピックスを確認しました。今般、改定では要件の厳格化による質向上の評価がトレンドであり、今回整理した方向性を理解しておくことで強化すべき取り組みや課題を見つけることが可能です。以上、ご参考にしていただければ幸いです。

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