ヘルスケア最新情報TOPIX「介護編」 2021.02月号
「2021 年度介護報酬改定の押さえておきたいポイント」
今月号では、2021 年度介護報酬改定の運営基準や基本報酬などの諮問・答申に関する情報をもとに、「Ⅰ. 2021 年度介護報酬改定の全体像とポイント」を確認し、「Ⅱ. 2021 年度改定を象徴する4 つのトピックス」を整理します。改定は、運営基準の見直しをはじめ、CHASE・VISIT(LIFE)の運用を起点とした、リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の取組の一体的な運用への衣替えなど、介護業界全体に関わる見直しが目白押しです。本編は詳細な個別単位の確認ではなく、全体的なポイントの確認になりますので、その点を踏まえてご参考にしていただければ幸いです。
【確認keyword】
「業務継続を後押しする新たな仕組みの導入」「CHASE・VISITを評価した科学的介護推進体制加算の新設」「リハ・口腔・栄養の一体的な運用」「オンライン会議の容認」
[Ⅰ]2021 年度介護報酬改定の全体像とポイント
2021 年度介護報酬改定は0.70%(このうち0.05%相当が9 月末までの特例的な評価)となり、改定の内容は5 つのテーマに沿って各種評価が盛り込まれました(下図)。プラス改定により基本報酬は軒並み微増となったものの、加算の整理統合や基本報酬への組み込みによる評価の見直しもあるため、詳細な単位や要件は各自の確認が必要です。

今回、プラス改定ということで経営面での心配は払拭されましたが、介護事業者が遵守しなければならない運営基準の見直しが数多く盛り込まれた点に注視していく必要があります。全サービスに義務化された「感染症対策および業務継続の取り組みの強化」、「高齢者虐待防止の推進」、「ハラスメント対策の強化」、「CHASE・VISIT 情報の収集・活用とPDCA サイクルの推進」は改めて組織的に対策を練っていかなければなりません。
この他、押さえておきたいポイントは、業務の効率化や負担軽減として、ケアプランや重要事項説明書、計画書等の諸記録の保存・交付等が紙媒体に加えて電磁的な対応も可能となった点にも注目です。利用者に係るCHASE・VISIT 情報のみならず、運用においてICT 対応が可能となり、ICT 全般のインフラ整備の必要性が高まったといえます。
[Ⅱ]2021 年度改定を象徴する4 つのトピックス
ここでは、全ての介護事業者が押さえておきたい2021 年度改定を象徴する【業務継続】【CHASE・VISIT】【リハ・口腔・栄養】【ICT】に関するポイントを確認していきます。
【①業務継続】運営基準の見直しにおけるインパクト
BCPとは「業務継続計画(Business Continuity Plan)」の頭文字を取った用語であり、「事業を継続するための行動計画」と位置付けられます。今回の運営基準の見直しにより、全サービスにBCPの策定や訓練等が義務化され、新型コロナウイルスをはじめとする感染症対策の強化、頻発する災害などを想定した業務継続の取り組みの強化が義務化となりました。利用者の多くは日常生活や健康管理・維持の大部分を介護サービスに依存しているため、大地震や豪雨等の自然災害や感染症のパンデミックが発生し、通常通りに業務を実施することが困難になった場合でも、優先業務の実施が必要不可欠となります。そのため、BCPの策定のみならず、研修や訓練の実施などが求められている訳です。
まず、BCPの策定は、厚労省が公表した雛形や様式のテンプレート、ガイドラインを活用することが効率よく作成を進めるポイントになります(下図)。そして、委員会の開催、指針の整備、研修と訓練の実施により、BCPが確実に実行できる組織的な取組を強化していなければなりません。これらは実地指導の際、確認事項になることが想定され、研修や訓練等の議事録として実施した記録を残すことも押さえておきたいポイントです。

この他、改定ではコロナ禍の外出自粛等の影響により、通所系サービスの利用者数が大幅に減少した実態を踏まえ、通所介護や通所リハビリ等の安定的なサービス提供を可能とする観点から、業務継続を後押しする新たな仕組みが導入された点に注目です。感染症や災害の影響により利用者数が5%以上減少した場合、基本報酬の3%の加算(左図)または規模区分の変更(右図)を認め、3ヶ月算定できる特例措置が設けられました。

【②CHASE・VISIT】情報の収集・活用とPDCA サイクルの推進
全てのサービスの運営基準に、CHASE・VISIT を活用した計画の作成や事業所単位でのPDCA サイクルの推進、ケアの質の向上を推奨することが明示されました。2021 年度改定では、上記の介護報酬上の評価として、施設系・通所系・居住系・多機能系サービスに「科学的介護推進体制加算」が新設となった点に注目です。4 月以降はCHASE・VISITを統合し、「LIFE(Long-term care Information system For Evidence)」と名称が変更になりますので注意しなければなりません。該当事業所では、全ての利用者に係るADL、栄養、口腔・嚥下、認知症等のデータをCHASE に提出してフィードバックを受け、事業所単位でのPDCA サイクル・ケアの質の向上の取組が評価されることとなります(下図)。
提出するデータは、サービス毎の特性や入力負担等を勘案した項目が設定され、施設系の加算Ⅱでは疾病や服薬等の情報が必要になります。科学的介護の実現に向けて、加算取得の有無に関わらず、各介護事業者によるデータ提出の重要性が増してきた点を押さえ、積極的に参画していくことが大切です。CHASE・VISIT を活用した計画の作成は、より効果的な自立支援・重度化予防につなげていくうえで、リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の取組の一体的な運用に関与する点も併せて押さえておきましょう。


【③リハ、口腔、栄養】一体的な運用へ刷新、加算の整理統合に注意
リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養に関する見直しにおいては、より効果的な自立支援・重度化予防につなげていく観点から、これらの取組を一体的な運用へと大幅に刷新される点に注目です(下図)。リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の一体的な運用では、リハビリテーションの負荷または活動量に応じて、必要なエネルギー量や栄養素を調整することが筋力・持久力の向上及びADL維持・改善につながります。また、誤嚥性肺炎の予防及び口腔・嚥下障害の改善には、医科歯科連携を含む多職種連携が有効であり、口腔・嚥下機能を適切に評価することで、食事形態・摂取方法の提供及び経口摂取の維持が期待されています。
具体的な見直しのポイントは、リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養に関する加算等の算定要件とされている計画作成や会議について、専門職であるリハビリテーション専門職、管理栄養士、歯科衛生士の関与が明確化されました。そして、リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養に関する各種計画書・実施記録に関して、重複する記載項目を整理し、実施計画を一体的に記入できる様式へと衣替えされ、評価も加算の整理統合や基本報酬への組み込みにより変更される点に留意しなければなりません。

【④ICT】テクノロジーの活用、ICT インフラ整備の必要性
昨今のテクノロジーの進展は目覚ましく、加えてコロナ禍で3 密を避けることや非接触サービスが推奨される中、運営基準や加算の要件等において実施が求められている各種会議等の対面での実施が見直しとなる点に注目です。感染防止や多職種連携の促進の観点から、医療・介護の関係者のみで実施する会議等について、オンラインやテレビ電話等を活用した実施が容認となります。また、利用者等が参加して実施するものにおいても、利用者等の同意を得た上でテレビ電話等を活用した実施が認められます。
この他にも、見守り機器やインカム等のICT の導入においては、特養の「夜勤職員配置加算」の人員配置要件について、①現行の0.9 人配置要件の見守り機器の導入割合の要件を現行の15%から10%に緩和、②新たに0.6 人配置要件・見守り機器の導入割合100%、夜勤職員全員がインカム等の使用という区分が新設されます。また、「日常生活継続支援加算(特養)及び入居継続支援加算(特定施設)」において、見守り機器やインカム、記録ソフト、移乗支援機器などの複数のICT や機器を活用し、利用者に対するケアのアセスメント評価や人員体制の見直しをPDCA サイクルによって継続して行う場合、当該加算の介護福祉士の配置要件が現行の6:1 から7:1 に緩和となります。
こうしたテクノロジーの活用は、訪室や記録の時間削減や負担軽減につながり、サービスの質の向上や業務分担、業務効率化の推進として重要です(下図)。そして、働き方改革を推進するうえでも重要なインフラ整備になります。導入を検討の際は、自施設に近い導入実例を参考にすることで、よりスムーズに運用・活用していけるでしょう。

▼今月号の考察
今回は2021 年度介護報酬改定の全体像とポイントを確認し、2021 年度改定を象徴する4 つのトピックスを整理しました。プラス改定により基本報酬は軒並み微増となったものの、加算の整理統合や基本報酬への組み込みによる評価の見直しも多いため、各サービスの単位や詳細な算定要件は各自の確認が欠かせません。そして、CHASE・VISIT(LIFE)の運用など、ICT 全般のインフラ整備の必要性が高まった点に留意していきましょう。以上、ご参考にして頂ければ幸いです。
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