ヘルスケア最新情報TOPIX「介護編」 2021.03月号
「介護経営に関わる働き方改革とICT 導入支援の動向」
今月号では、2021 年4 月に中小企業に適用となる働き方改革に関する話題について「Ⅰ.働き方改革のスケジュールと同一労働同一賃金のポイント」を整理しつつ、業務効率化や感染対策として期待される「Ⅱ. ICT・ロボット等導入支援の活用、補助金のポイント整理」を確認します。
「同一労働同一賃金」は人件費の高騰、「ICT・ロボット等導入」は経費の増加として懸念される一方で、スタッフの労働条件の再確認を起点に、労働環境の見直しや業務の効率化を図るチャンスと受け止めることが重要になります。経営改善の一助としてご参考にして頂ければ幸いです。
【確認keyword】
「働き方改革の全体像とスケジュール」「同一労働同一賃金における確認すべきポイント」「事業主による均衡・均等な待遇の確保」「ICTと介護ロボットの導入支援、補助金の拡充」
[Ⅰ]働き方改革のスケジュールと同一労働同一賃金のポイント
■ 働き方改革の全体像とスケジュール
我が国は、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や、育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化などの状況に直面しています。こうした中、生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。「働き方改革」は、こうした課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。
2019 年度から順次施行されてきた「働き方改革」ですが、施行内容と適用時期は事業規模により異なります(下図)。中小企業では2021 年4 月に「同一労働同一賃金」が適用となる点に留意しなければなりません。こうした対応は法的義務として当然ですが、法的措置だから仕方ないとネガティブに考えるより、労働者のライフスタイルに適応した労務管理や福利厚生へと見直しを図り、職場環境をリフレッシュするものだとポジティブに考える方が賢明だといえるでしょう。そして、導入タイミングは事業年度の変わり目が切り替えやすいメリットもあり、4 月に向けて改善していくことが重要です。

■ 同一労働同一賃金に関する押さえておきたいポイント
同一労働同一賃金の基本的なポイントは、同じ職場で働く「正社員」と「短時間労働者・有期雇用労働者(非正規雇用労働者)」との間で、基本給や賞与、手当、休暇、福利厚生、教育訓練などあらゆる待遇について、不合理な差を設けることが禁止された点です。したがって、事業主は、正社員と正社員以外との不合理な待遇差を解消することが求められ、すべてのスタッフの働き方を再確認して、均衡・均等な待遇の確保を図るための措置を講じていかなければなりません。待遇差を解消するメリットは、非正規雇用労働者の給与に対する納得感が意欲や能力の向上、そして離職率の低下につながり、ひいては人材を確保しやすくなる等の効果が期待できるでしょう。その一方、待遇差の解消による人件費の負担が増加する可能性もあるため、スタッフの業務効率化、組織的な生産性向上の手立てが不可欠となります。
そこで、真っ先に確認が必要なことは「短時間労働者・有期雇用労働者」の判別です。介護事業所によっては、契約社員などと独自の呼び方で事業者も労働者自身も把握していないケースが散見されますので、正社員以外の「短時間労働者・有期雇用労働者」がいれば、下図のチャートに基づいて、対応の可否や課題を確認していく必要があります。

同一労働同一賃金における不合理な待遇差に関しては、待遇差自体が禁止されている訳ではなく、待遇差の決定基準が異なることについて不合理でないと説明できるかが問われています。基本的な考え方としては「正社員」と「短時間労働者・有期雇用労働者」の待遇は、主観的・抽象的な決定基準が異なる等の説明ではなく、「職務の内容(業務の内容+責任の程度)」や「職務の内容と配置の変更の範囲」、「その他の事情」の各待遇の性質・目的に照らし、適切と認められる事情を考慮して客観的・具体的な実態に照らして説明できるかが重要です。説明を求められた場合には、その待遇差の内容や理由について説明しなければならず、説明を求めたことを理由にその労働者に対して不利益な取扱いをしてはなりません。待遇差の合理性の線引きは、厚労省の「同一労働同一賃金ガイドライン」における判断が必要であり、下記のような基準が示されています。

以上の基本を押さえたうえで、下図の手順に基づいて実態を確認しながら、「法違反」が疑われる状況を脱却するため、適切な対応や改善策を計画的に講じていきましょう。

[Ⅱ]ICT・ロボット等導入支援の活用、補助金のポイント整理
2021 年度介護報酬改定では「見守りセンサーやインカム等のICT の活用」に対する介護報酬上の評価が拡充されました。さらには、厚生労働省の2020 年度第三次補正予算および2021 年度予算において拡充された介護・障害福祉分野における「ICT・ロボット等導入支援の補助金」がICT・ロボット等導入の追い風として期待されています。ICT・ロボットの導入が推進されている理由は業務効率化や感染対策として有用であるからです。
ここでは補助金の全体的なポイントを確認していきますが、詳細な申請期日や対象枠は各都道府県の地域医療介護総合確保基金における最新情報の確認が必要になります。
■ 介護現場のICT 導入支援の概要
2019 年度より介護現場のICT 化に向けた導入支援が実施され、2020 年度には補助上限額の拡充等が盛り込まれました。こうした中、今般の新型コロナウイルス感染症の発生により、感染症予防のための取組等が求められるなど、職員の業務負荷が増えている現状を踏まえ、2020 年度第一次補正予算において業務負担の軽減や業務効率化を図るため、更なる拡充が行われました。そして、第三次補正予算では、これまで拡充された事業内容を継続するとともに、一定の要件を満たす事業所への補助率の下限が3/4 まで引き上げられ、事業主負担の減額が図られた点が注目ポイントになります(下図)。

今回、2021 年度報酬改定においてLIFE(VISIT とCHASE を統合して名称変更)を本格的に稼働して科学的介護を推進していくうえで、介護現場のインフラ整備におけるICT機器の導入が前提となっています。補助金の拡充はインフラ整備を後押しする狙いがあることから、介護事業者は補助金を活用して導入費用を抑えつつ、介護報酬上の評価における恩恵を追い風にしながら、スタッフの負担軽減や職場環境の改善を図っていくことが重要です。
■ 介護ロボットの導入支援の概要
介護ロボットの普及に向けては、介護施設等に対する導入支援として、2020 年度当初予算で支援内容が拡大され、新型コロナウイルス感染症の発生によって職員体制の縮小や感染症対策への業務負荷が増えている現状を踏まえ、職員の負担軽減や業務効率化を図る必要があることから、更なる拡充が行われました。そして、第三次補正予算においては、見守りセンサー、インカム、介護記録ソフト等の組み合わせへの支援を拡充するとともに、一定の要件を満たす事業所の補助率の下限を3/4 まで引き上げて、事業主負担の減額が図られました。この他、関連事項では、体位変換支援機器や非装着型移乗介助機器などの導入支援として厚労省(労働局)管轄の「人材確保等支援助成金」もあり、機器の導入目的と種類に応じて使い分け、活用していくことがポイントになるでしょう。

▼今月号の考察
今回は働き方改革のスケジュールと「同一労働同一賃金」のポイントを確認し、業務効率化や感染対策として期待される「ICT・ロボット等導入」に係る補助金の概要を整理しました。「同一労働同一賃金」と「ICT・ロボット等導入」は、スタッフの労働条件の再確認を起点に、労働環境の見直しや業務の効率化を図るチャンスと受け止めることが重要であり、労務管理が事業存続に必要不可欠である点を再認識しなければなりません。以上、ご参考にして頂ければ幸いです。
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