ヘルスケア最新情報TOPIX「介護編」 2021.10月号
「コロナフレイルの特徴とオンラインツールの可能性」
今月号では、2021 年度厚生労働白書によるコロナ禍の状況や今般の新たな動向を踏まえながら、「Ⅰ.外出自粛による高齢者の影響とコロナフレイルの特徴」を整理し、「Ⅱ.オンライン化の浸透とハイブリッド型仕組みの活用例」を確認します。昨今、コロナ禍による自粛生活が長期化し、人との交流の機会や交流の場が奪われ、高齢者の身体に大きな負の影響がもたらされています。介護事業者においては高齢者や利用者の環境変化を察知し、それに適応していくことが重要です。
【確認keyword】
「高齢者の外出機会の減少による負の連鎖」「コロナフレイルに係る相反した二極化」「利用者の健康維持に向けた取り組みの強化」「オンラインを活用したコミュニティ形成」
[Ⅰ]外出自粛による高齢者の影響とコロナフレイルの特徴
■ 外出自粛による高齢者への影響
新型コロナ感染拡大から約1 年半余りが経過した現在も、緊急事態宣言などにより度重なる外出自粛要請がなされ、人と人との接触を減らす不要不急の外出を避けるよう呼びかけられてきました。2020 年4~5 月の第一波による緊急事態宣言中において、高齢者の自宅での活動時間が2 時間24 分も増加し、さらに高齢者の1 週間当たりの身体活動時間は真冬で活動量が少ない同年1 月と比較して約3 割(約60 分)も減少したという調査結果があります。また、60 歳以上に対し、同居する人以外に何人と話しているか(対面、電話、ビデオ通話等を含む)を尋ねた調査では、新型コロナ感染拡大前と比べ、感染症影響下では1 人以下としか会話をしていない人は増加し4 割を超え、そのうち「誰とも話さない」が2 割を占めました(下図)。こうした動向は高齢者が感染すると重症化し、死亡率が非常に高いと繰り返し報道され、感染対策が徹底された結果だといえます。その反面、高齢者の外出機会の減少による身体活動や交流機会の減少が、負の連鎖を引き起こし、身体活動量や認知機能の低下等に影響を及ぼす「コロナフレイル」の高齢者が増加しているため、介護事業者は利用者の健康状態に注視していくことが肝要です。

■ コロナフレイルの特徴と不可欠な対策
新型コロナウイルス感染症が広がる中、外出制限により生活不活発となり、心身機能が低下するフレイル状態の高齢者が増えてきました。極端な外出自粛生活は、歩行や運動の機会を失わせ、筋肉量や身体機能の低下を招き、また人との交流断絶による孤立状態が続くと、うつ病などの精神面や認知機能の低下にも影響を及ぼし、フレイルの進行をさらに加速させるとされています。今般、政府の新型コロナワクチン接種の戦略的な展開が進められ、接種率の増加により高齢者の重症化や死亡率が減少傾向となってきました。介護事業者は刻々と変化する状況を踏まえながら、感染対策のみならず利用者のサービス提供や健康状態に対しても配慮していかなければなりません。
コロナ禍におけるフレイルでは「通常」のサイクルとやや異なる、「流行期」と「感染時」における特異的なサイクルになる点に注目です(下図)。フレイルの発生率は低栄養(やせ型)と高度肥満で高く、新型コロナ流行期では低栄養状態の高齢者はさらに栄養状態が悪化し、もともと過栄養の高齢者はさらに体重が増加する、相反した二極化が顕著となっています。その傾向は特に一人暮らしの高齢者で多いとされています。低栄養状態の高齢者は施設入所者でも同様の傾向があり、パンデミック後の施設の面会制限や食堂の利用制限を受けたケースにおいて著しい体重の減少が認められています。この現象は、面会や会話などの交流の減少に伴う抑うつや不安などが引き起こす精神心理的な影響により、食欲減退をもたらして栄養摂取量が減少した可能性があるとされています。

フレイル予防やその対策は「栄養(食と口腔機能)」「身体活動(運動や社会活動等)」「社会参加(人とのつながりが特に重要)」の3本柱の基本を、日常生活の中に継続的に盛り込みながら、いかに底上げできるかが鍵となります。底上げには、行政のみの関与では限界があり、特に介護予防や軽度者の介護に携わる介護事業者における関与も重要になります。高齢者個々人へどのような情報を届けて、いかに意識変容・行動変容してもらうか、そしてすべての住民活動が止まってしまっている地域コミュニティをどのように前向きに再構築していくのか、個々の高齢者と地域へのアプローチが不可欠です。
次に、新型コロナ流行前後のフレイルチェック結果の比較を用いて影響を確認すると、自粛生活の長期化による生活不活発および社会性の低下をベースに、サルコペニアを中心としたフレイル化が進行している現象が多面的に認められる結果となっています(下図)。具体的には、ふくらはぎ周囲長や体幹筋量、口腔関連QOL(GOHAL)、人とのつながりや組織参加などが特に低下しています。一方、コロナ禍でも社会参加や人とのつながりが低下していない高齢者の群が存在し、その群では握力などの身体機能低下が認められず、社会性の低下した群の機能低下がフレイルに深く関与している点に注目です。

介護事業者においては、新型コロナ感染拡大の影響を受け、利用者や家族の希望によるサービスの利用控え、受入れやサービス提供の制限・縮小、さらには事業者の休業等の影響を受けて経営難に追い込まれる例も少なくありませんが、1 人ひとりの利用者の健康状態およびフレイルに注視していくことが大切です。そして、「コロナフレイル」と呼ばれる介護予備軍の高齢者の増加が、将来の見込み利用者に直結する点を踏まえ、利用者を受け入れる環境整備として感染対策とBCP 策定が急務だといえます。
高齢者へのワクチン接種が幅広く浸透する中で、感染対策とBCP 策定は利用者やケアマネジャー等から選ばれるために欠かせず、安定した経営基盤を築く新たな礎になったと認識していく必要があるでしょう。その理由は利用者が安全にサービスを利用できる環境を求めているからです。介護サービスの提供は、利用者の健康管理や生命維持に欠かすことができないため、日々の感染対策や研修・訓練の中で生じた問題の改善点を付加しながら、事業運営に欠かせない計画に仕上げていく視点が大切です。
[Ⅱ]オンライン化の浸透とハイブリッド型仕組みの活用例
■ コロナ禍で加速するデジタル化、オンラインサービスの活用
今般の政府の新型コロナ対応では、行政のデジタル化の遅れに伴い、非効率なシステム連携、煩雑な手続きや給付遅延による住民サービスへの影響など、様々なデジタル化の課題が露呈される形となりました。政府は兼ねてよりデジタル化の推進に向けた準備を進め、コロナ禍の課題も踏まえたうえで、菅義偉政権の目玉政策であるデジタル庁が9 月1 日に発足となりました。デジタル庁はデジタル社会形成の司令塔として、デジタル時代の官民のインフラを今後5 年で一気呵成に作り上げることを目指しています。
昨今のコロナ禍では様々なデジタル化が社会全体に波及し、SNS などの新しいコミュニケーションツールの利用が増加し、日常生活に多様なオンラインサービスが浸透してきました。2020 年 5~6 月の内閣府の調査によれば、直接対面での接触が減少する中、対人コミュニケーションのツールとして SNS やテレビ電話等の利用が増加し、高齢者においても約 5 割がビデオ通話を利用したことがあるという回答結果となりました。オンラインサービスの利用が高齢者にも浸透してきた点に着目していく必要があります。

■ 「通いの場」でのオンラインツールを活用した取り組み
新型コロナウイルス感染症の影響が長期化する中で、これまで地域の「通いの場」を利用していた者をはじめとして、多くの高齢者が外出を控え、居宅で長い時間を過ごすようになりました。このような環境下において、生活が不活発な状態が続くことにより、心身機能の低下によるフレイル状態に陥ることが懸念されることから、ワクチン接種による重症化予防が進む動向を踏まえ、介護事業者は感染対策もさることながら、利用者の健康維持に向けた取り組みを強化していく必要性が高まってきたといえます。
地域のフレイルチェック活動はコロナ禍で中止や自粛に追い込まれ、高齢者のフレイルは確実に進んでいます。そこで、コロナ禍の新たな取り組みとして注目されているのは、オンラインやテレビ電話を組み入れて、対面と同じような感覚で集えるアプリケーション(仕組み)の開発とその試行です。具体的な取り組み事例としては、「通いの場」の運営者等がオンラインなどを活用して、自宅にいる高齢者に声掛けを行うほか、画面越しに体操等を行うというオンライン型の「通いの場」が試行的に実施されています。
こうしたオンライン型の「通いの場」を取り入れた日本老年医学会の「フレイル予防活動ハイブリッド型フレイル予防システム」は、「①対面型と対面型をつなぐ持続的フレイルチェック」、「②フレイルの啓発とチェック(中高齢者へのフレイルの啓発と対面型に来れない方のフレイルチェック)」、「③有事のフレイルチェック」として機能しています(下図)。ICT 技術を駆使したこの予防システムは「身体は離れていても心が近づくことができる地域社会」をコンセプトにフレイル予防につなげつつ、持続可能な居場所づくりとして注目されています。物理的な距離が離れていても気軽に集えるオンラインツールを活用したコミュニティの形成は、フレイル対策に限らず、介護事業者における利用者の関係強化やイベント開催等においても様々な応用が可能です。高齢者のオンラインサービス利用の高まりを踏まえ(高齢者は使えないと決めつけず)、状況に応じて積極的にオンラインツールを取り入れ、対面型と組み合わせて活用していくことで、With コロナ時代に絆を強める一助となり、利用者の健康維持と満足度に寄与できるでしょう。

▼今月号の考察
今回は2021 年度厚生労働白書などをもとに、外出自粛による高齢者の影響とコロナフレイルの特徴を整理し、新たなオンラインツールの動向を確認しました。介護事業者においては、地域活動にもコロナ禍の様々な影響がもたらされている点を鑑みて、地域の高齢者のフレイル予防に注視していくことが大切です。オンラインツールの活用はWith コロナ時代に不可欠であり、柔軟に適応していくことが重要になります。以上、今後の取り組みにご活用頂ければ幸いです。
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