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ヘルスケア最新情報TOPIX「介護編」 2022.02月号


「処遇改善に係る補助金と新加算のポイント整理」

 今月号では、厚労省の関係資料を参照して、「Ⅰ.処遇改善に係る補助金と新加算の位置づけ」を確認し、「Ⅱ.処遇改善に係る補助金と新加算の留意事項」を整理していきます。

 補助金と新加算は、2022 年2 月~9 月までは全額国費の補助金で支給され、10 月以降は介護報酬上の加算に組み込まれて恒久化される予定であり、対象は現行の介護職員処遇改善加算を算定している介護事業者に限られます。現時点で判断が難しい点も多く、詳細等は今後の最新情報を確認していく必要がありますが、活用に向けたポイント整理としてお役立て頂ければ幸いです。

【確認keyword】
「岸田政権の分配戦略による賃上げ補助金」「支給シミュレーションの必要性」「給与水準の変更や経営悪化における懸念事項」「処遇改善を含む他の介護人材確保対策の再確認」

[Ⅰ]処遇改善に係る補助金と新加算の位置づけ

 介護報酬上で評価された「介護職員処遇改善加算」と「介護職員等特定処遇改善加算」は、介護職員の賃金改善と雇用の安定化を目的に設けられた制度です。処遇改善加算により、働く介護職員等は賃金の上乗せがなされ、該当事業者では介護職員を確保するための体制整備を着実に進めることができ、介護経営に欠かすことのできない加算として位置付けられて現在に至ります。加算の取得要件にはキャリアパス要件の整備や職場環境の改善、賃金体系の整備等が必要とされ、計画書や報告書の提出が求められています。

 今回、この「介護職員処遇改善加算」と「介護職員等特定処遇改善加算」に続く第三の加算として、「介護職員処遇改善加算の新加算」の導入が検討されています(下図)。新加算は、岸田政権の目玉施策「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策(分配戦略)」に組み込まれた「介護職員処遇改善支援補助金」の後継モデルとして設計され、給与水準をベースアップする目的で、2-9 月が補助金、10 月以降に新加算として展開される予定となっています。補助金と新加算は、目的は同じものの若干の相違点があり、申請を検討する場合はそれぞれの情報を正しく理解することが肝要です。

 「介護職員処遇改善支援補助金」は2021 年度補正予算により、介護職員を対象に、賃上げ効果が継続される取組を行うことを前提として、収入を3%程度(月額9,000 円)引き上げる措置と位置づけられ、「介護職員処遇改善加算の新加算」も同様に賃上げを目的とした加算となります。2-9 月の補助金の交付は10 月以降の新加算の算定につながるため、一体的に情報を理解しておくことが重要です(下表)。補助額の2/3 以上をベースアップにする取得要件をどのようにしてクリアするか、介護職員のみならず他の職員の処遇改善にいかに充てていくか等、検討すべき課題はいくつもあり、2・3 月には実際に賃上げした旨の報告が必要になるタイトなスケジュールに留意しなければなりません。

[Ⅱ]処遇改善に係る補助金と新加算の留意事項

■ 補助金および新加算の支給シミュレーションの必要性

 2-9 月の「介護職員処遇改善支援補助金」の交付は、10 月以降の「介護職員処遇改善加算の新加算」の算定につながる話であり、2・3 月にベースアップを行いつつ、処遇改善計画書を作成して4 月に申請を行うには、交付額や加算額を試算して、そのうち2/3以上をベースアップに組み込むための支給シミュレーションが不可欠になります。

 例えば、交付額・加算額が90 万円の場合、そのうち60 万円(90 万円×2/3)を毎月の給与水準のベースアップに充当しなければならず、既存の賃金規程(基本給)で対応できない場合、今回のベースアップに対応した手当(固定的賃金)を新たに作れば、賃金規程の改正を行う必要があります。賃金は労働者にとって重要な労働条件であり、経営者は改正に係る情報を労働者に周知しなければなりません。

 シミュレーションにおいては、2-9 月の補助金の交付率、10 月以降は新加算の加算率がベースとなります。2-9 月の補助金は、できる限り速やかに事業所へ補助金を交付する観点から、処遇改善加算等も含めた「総報酬」に交付率を乗じる計算となり、加算率と若干違う利率が設定されているサービスもあり、注意しなければなりません(下図)。

 現行の処遇改善加算等が創設された時もそうでしたが、「月額○○円の賃上げ」というフレーズの印象が強く、実際の支給額は介護職以外にも配分すれば1 人あたりの金額は少なくなる点を職員が正しく理解し、経営者は職員の誤解や不満にならないよう情報をできる限り開示して、丁寧に説明をして職員の納得を得ていくことが大切です。

■ 給与水準の変更や経営悪化における懸念事項

 給与水準のベースアップに関しては、一度賃上げをしてしまうと簡単に下げられないなどの懸念事項が散見されます。今回、仮にベースアップを元に戻す場合を想定して、ベースアップの原資となる補助金および新加算がなくなった場合に廃止とする旨を盛り込んだ新たな手当を設定し、賃金規程の改正を行っておけば、職員の理解も得られやすく、賃金トラブルを回避できるでしょう。

 なお、今般のコロナ禍においては、サービス利用者数の減少などにより、経営が悪化して一定期間収支が赤字となり資金繰りに支障が生じる等、経営状況が変わった場合に職員に支給できないことも懸念事項となっています。こうした不測の事態においては、「介護職員処遇改善加算及び介護職員等特定処遇改善加算に関するQ&A(介護保険最新情報Vol.993:2021 年6 月29 日)」が参考になります。この厚労省事務連絡では、『賃金水準を引き下げざるを得ない場合、「特別事情届出書」を届け出ることで、計画書策定時点と比較し、加算の算定により賃金改善を行った賃金の総額が減少し、実績報告書において賃金改善所要額が加算総額を下回ることも差し支えない』とされており、今後、今回の補助金または新加算に対しても適用されるか否かを確認しておく必要があります。

 また、今回のベースアップにより標準報酬の等級が上がり、健康保険・厚生年金保険の保険料額が変更になって職員の保険料負担が増すことや、固定的賃金が大きく変われば標準報酬月額の随時改定が必要になる場合もあり得るため、賃金規程の改正や関連事項の不明な点はそのままにせずに、厚労省管轄の「労働局」や、厚労大臣認可の「全国社会保険労務士会連合会」などに相談しながら対応を決定していくことが大切です。

 次に、2-9 月の補助金および10 月以降の新加算に係るスケジュール(下図)をもとに、申請に係る確認ポイントを整理していきます。申請の第一歩は、支給シミュレーションで確定した支給額を2・3 月に都道府県に報告することから始まります。2・3 月分の支給は、就業規則(賃金規程)の改正などで時間を要する場合が想定されるため、ベースアップではなく、一時金による対応でも可能となっています。補助金に関しては4 月分の交付額は6 月、新加算では10 月分の加算が12 月に入金となり、職員への支給と入金に2 ヶ月のタイムラグが生じてしまうため、資金繰りに対しても注視していかなければなりません。特に2・3 月分がいつ入金になるかの記載はないため、この点も確認が必要になります。なお、作成時点の1 月下旬では不明な点もあるため、申請における具体的な手続き方法などは各都道府県が発信する最新情報の確認が不可欠です。

 また、現行加算に係る計画書の提出時期(4 月)が近づいている点にも留意しながら準備していく必要があるでしょう。

■ 処遇改善を含む介護人材確保対策の重要性の再確認

 「介護職員処遇改善支援補助金」の交付および「介護職員処遇改善加算の新加算」の算定は、労務管理の事務処理や煩雑な手続きが伴うものの、人材確保に向けた取り組みの一環であると認識し、政府が推進する「介護人材確保対策」をフル活用して、自施設・事業所の取り組みを再確認しながら、職場環境を改善していくことが大切です。

 「介護職員の処遇改善」は、介護職員処遇改善加算として介護報酬上の評価において現場に浸透し、キャリアパス要件や職場環境等要件などにより、介護職員の賃金改善とともに働く環境の整備も相乗的に進められてきました。処遇改善以外の介護人材確保対策では、主に地域医療介護総合確保基金を活用した取り組みが推進されています。介護事業者では各都道府県の情報を適宜確認しておく必要があり、バランスよく取り入れて活用していくことがポイントになります。また、コロナ禍の影響が求人・求職動向にも波及していることから、定期採用や臨時採用のタイミング、正社員やパートの雇用形態、民間人材サービスの活用など、様々な採用ルートの構築が安定的な人材確保において重要になります。さらには、人材不足を補う手立てとして、介護ロボットやIT 導入の補助金を活用した介護機器やシステム、ICT 等の導入に目を向けていくことも大切です。

 今回の処遇改善に係る補助金と新加算は、単なる賃上げに留めず、「介護サービスの質の向上」と「人材の定着・確保」の一助として、働く人のモチベーションの向上や楽しい職場・働きやすい職場づくりにつなげることが重要であり、サービスの生産性向上や介護の価値を高める取り組みとして活用していくことがポイントになるでしょう(下図)。

▼今月号の考察

 今回は、処遇改善に係る補助金・新加算の位置づけや留意事項を確認しました。昨今、政府の多岐に亘る介護人材確保対策が推進されていますが、介護報酬改定や制度改正への対応は手段に過ぎず、介護事業者は事業継続や事業展開において不可欠な人材確保や処遇改善の問題点を優先的に解決していく必要があります。対象事業者は2・3 月の賃上げ報告に向けた準備において、不明な点は各都道府県の担当部署に確認していくことが重要です。以上、介護経営に関わる最新情報の理解を深める一助として、今後の取り組みにご活用いただければと思います。

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