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ヘルスケア最新情報TOPIX「介護編」 2022.08月号


「事業・利用者・職員を守るために不可欠なBCP策定」

 今月号は、2024年4月1日から義務化となる「感染症対策」と「業務継続に向けた取組」の強化において欠かせないBCPの策定について、「Ⅰ.BCP策定の目的と効率よく作成を進めるポイント」を確認し、「Ⅱ.BCP策定に向けて押さえておきたい3つの着眼点」を整理していきます

 今般の新型コロナウイルス感染症の高齢者への影響や、自然災害における各地の被害状況を鑑みれば、すぐにBCP策定を進めて、具体的な対応策を練っていく必然性が増してきたといえます。身近に迫る危機は他人事ではないと受け止めて、最初の一歩を着実に踏み出していきましょう。

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「BCP策定の早道は厚労省ひな形・テンプレートの活用」「効率よくBCP策定を進める秘訣」「BCPを確実に遂行できる組織力を高めるエッセンス」 「実践的なBCPに仕上げるポイント」

[Ⅰ]BCP策定の目的と効率よく作成を進めるポイント

 2021年度介護報酬改定では、2024年4月1日から運営基準において、すべての介護サービス事業者を対象に「感染症対策」と「業務継続に向けた取組」の強化が義務付け(3年の経過措置)となり、BCP策定、研修や訓練の実施等が必要となりました(下図)。

 これらは利用者の生命にも関わる重要事項であるため、今後の「集団指導」や「運営指導」において重視されていくと予想されます。猶予期間が残り1年半余りと迫る中、いつまでに何を実施していくか等、計画的に準備を進めていくことが大切です。

 これらの対策が義務化となった背景には、感染症のパンデミックや大地震や豪雨等の自然災害が発生し、通常通りの業務が困難になった場合でも、優先業務の実施が不可欠となり、そのためにはBCP策定が必要であり、研修や訓練の実施なども求められています。BCP策定は、厚労省が公表したひな形やテンプレートなどを活用することが効率よく作成を進めるポイントになり、BCP策定に向けた委員会の開催や訓練の実施を重ねることで、BCPを確実に遂行する組織力を高めていくことができる相乗効果も期待されます。

[Ⅱ]BCP策定に向けて押さえておきたい3つの着眼点

■ BCPは事業・利用者・職員を守るための計画

 BCPとは「業務継続計画(Business Continuity Plan)」の頭文字を取った用語であり、人命を守りながら「事業を継続するための行動計画」と位置付けられます。

 感染症のパンデミックや大地震や豪雨等の自然災害が発生すると、通常通りに業務を実施することが困難になります。BCPは非常事態でも優先業務を実施するために、あらかじめ検討した方策をまとめた計画書であり、「平常時の対応」や「緊急時の対応」の検討を通して、「業務縮小」の落ち込みを小さくし、「業務回復」に要する時間を短くする対策を練り上げるうえで欠かせないツールとしての役割があります(下図)。

 介護事業において、利用者の多くは日常生活や健康管理・維持の大部分を介護サービスに依存しており、サービス提供が困難になることは利用者の生活・健康・生命に支障をきたすことになるため、優先度の高い業務を早急に回復し、いかに継続していくかが重要になります。そして、介護サービスにあたる職員の理解を深めることで、非常時にパニックに陥ることなく円滑にサービス提供を行い、事業を継続することができるのです。

 「新型コロナウイルスなどの感染症」と「大地震や風水害などの自然災害」の2つの対策が求められる中、BCPも各々策定する必要があります。「感染症」と「自然災害」では被害の対象や期間などの違いに着目していくことが策定のポイントであり、感染症では「ヒト」への影響が大きく、自然災害では建物や設備、通信網などの「インフラ」に被害を及ぼす点が大きく異なります。どちらも事業・利用者・職員を守るうえで、何が必要で何をすべきかを組織的に考え、各事業者のリスク度合いに応じて「感染症」と「自然災害」のどちらを優先させるかを判断していく必要があります。すでに策定済の場合であっても最新情報にアップデートしながら研修や訓練を重ねていくことが重要です。

■ BCP策定の着眼点①「じっくりよりもざっくりとでも全体を網羅する」

 BCP策定の早道は、厚労省が公表している入所・通所・訪問などの特性を踏まえた各介護サービスのノウハウが盛り込まれたガイドラインをはじめ、ひな形や様式のテンプレートを活用することです(下図)。動画コンテンツは研修に活用することもできます。

 「感染症」と「自然災害」の2つのBCP策定を進めていくには、1つずつじっくり詳細をつめていくとキリがないため、それよりもざっくりとでも全体をカバーしていくことの方が重要になります。BCP策定の手順としては、ゼロから策定することは労力・時間の面で負担が大きいため、厚労省のテンプレートを活用して、空欄を埋めていきながらBCPの全体を網羅していくことが、策定に取り掛かるうえでのポイントになります。

 BCPは策定の義務化により、「運営指導」の際に提示や確認が求められる可能性があるものの、提出用に作成する書類ではありません。BCPは初めから完璧を目指さず、改良を重ねて見直す前提でざっくりと作成を始め、まずはBCP策定の土俵に上がっていく行動が重要になります。日々の業務の中で生じた問題点や改善点を付加していくことで存在価値が高まり、事業運営に欠かせない計画になっていくのです。ひな形は施設・事業所単位で作成することを前提とした仕様であるため、複数の施設や事業所を持つ法人では、法人本部としてのBCPも別途作成していくことで組織力を高めていくことができます。

 そして、BCP策定とともに研修と訓練の実施もセットで義務付けになっている点に留意しなければなりません。研修と訓練の実施にあたっては、実施時における課題や改善事項などを整理して、委員会として議事録などの記録を残すことがポイントになります。長引くコロナ禍において、くしくも日々の業務自体が訓練と実践の連続となっています。1つひとつの地道な積み重ねが、事業者の基礎体力を高め、予期せぬクラスターや災害時の備えとなり、利用者や職員を守りながら事業を継続する礎になっていくでしょう。

■ BCP策定の着眼点②「非常時に実施できる体制を指標に作成していく」

 BCP策定において重視すべきポイントは、義務化だから作成するのではなく、非常時に優先業務を実施できる体制づくりを指標に作成していくことであり、優先業務の選定に着目していかなければなりません。厚労省のガイドラインやテンプレートでは、重要度に応じて業務を4段階(A-D)に分類し、職員の出勤率に応じた業務分類が示されています(下図)。業務分類は、業務に優先順位をつけて感染のピーク時でも優先業務は最低限継続させることを目的とした仕分けであり、事態の進展に合わせて優先度の低い業務から順番に縮小・休止する形となります。テンプレートのままでも使用できますが、事業規模や利用者の状態などを確認しながら業務内容に合わせて分類していきましょう。

 そして、施設内のクラスター発生や職員の自宅被災などが起きてしまえば、優先的な継続業務を行ううえで支障をきたすため、人材不足による「ヒト」のやりくりが必要に迫られます。人材不足に陥ったことを想定し、出勤可能な職員数の動向(出勤率)等を加味しつつ、提供可能なケアの優先順位を検討して、業務の絞り込みや業務手順の変更、行政への応援依頼などの要所の確認が重要になります。利用者にとって介護サービスは命綱であり、事業を停止すれば一人で食事や排泄等ができない方が多いのが実情です。パンデミックでも災害時においても、高齢者が生活機能を失わない代替策の確保が必要となり、行政や関係団体への協力要請などを通じて職員が確保できるか、代替サービスが提供できるか等をつめていく必要があります。テンプレートへの書き込みは、事業・利用者・職員を守るうえでの確認作業と位置付けることができ、利用者本位のBCPとして機能できるかを基準に組織的に確認を進めていくことが肝要です。

■ BCP策定の着眼点③「優先度の高い方を作成して、もう一方に応用する」

 「新型コロナウイルスなどの感染症」と「大地震や風水害などの自然災害」の2つの対策が求められる中で、「感染症」はヒト、「自然災害」はインフラの対策といった重視すべきポイントが異なるため、同時にBCP策定を進めていくことは現実的ではない(手に負えない)と思います。各事業者のリスク度合いに応じてどちらを優先させるかは判断を要し、その基準として、近隣エリアで新型コロナの感染が拡大していれば「感染症」のBCP策定を優先し、各地域の防災ハザードマップを確認して被災リスクが高ければ「自然災害」のBCP策定を進めていくのがベターだと判断されます。

 とりわけ介護事業所や介護施設では、感染症に対する抵抗力が弱い高齢者が多く、介護現場は重症化リスクが他業種よりも高い状況にあります。新型コロナの感染力が強く、どんなに万全な感染対策を実施しても人の行き交いがある以上、感染者が出る可能性をゼロにすることは難しいため、多くの事業者においては「感染症」のBCP策定の優先度が高いといえます。感染対策は、感染者が出てから慌てることのないよう感染症発生時の対応を事前に想定し、感染拡大を最小限に留めていくことが重要なリスクマネジメントの基本となります。介護事業者は、平常時から職員自身の健康管理や感染予防はもとより、感染症発生時には感染拡大防止の迅速かつ適切な対応を図らなければなりません。

 業務継続では「ヒト」のやりくりが中心的な問題となり、感染拡大時の人員確保策をあらかじめ検討しておくことが BCP 策定における課題となります。そして、感染が拡大すれば、人員確保に加えて、感染予防に必要な物資不足が起こりやすくなることから、平時に備蓄を進めておくことも重要です。政府や行政の正確な情報を収集し、その都度、的確に状況判断をしていくことが管理者に求められています。

 初めに「感染症」対策に取り組めば、その知見をベースに「自然災害」の対策に応用していくことで、同時にBCP策定に取り掛かるよりもスピーディーに効率良く取り組むことが可能です。コロナ禍ではクラスターを経験した介護施設等も少なくなく、自然災害においては全国的に大地震や風水害が多発していることから、管理者やケアマネジャーを中心に、実際の現場の対応例や体験談などを収集・共有し、対策に反映していくことで、事業・利用者・職員を守るためのより実践的なBCPに仕上げていけるでしょう。

▼今月号の考察

 今回は、2024年4月1日から義務化となる「感染症対策」と「業務継続に向けた取組」の強化において求められているBCP策定に関して、策定に向けたポイントや着眼点を確認しました。猶予期間が1年半余りと迫る中、利用者や職員の安全や安心を第一に考えて取り組んでいくことが最も大切であり、まずは厚労省のひな形などのテンプレートを活用して、策定に着手していく第一歩が重要になります。以上、今後の事業運営の一助としてご参考にして頂ければ幸いです。

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