ヘルスケア最新情報TOPIX「介護編」 2022.09月号
「ベースアップ等加算を含む処遇改善加算の注目点」
今月号では、2022年10月1日に新設される介護職員等ベースアップ等支援加算のほか、現行の処遇改善加算に関する確認事項として、「Ⅰ.ベースアップ等加算の新設と申請における確認ポイント」と「Ⅱ.3階建てとなる処遇改善加算の位置づけと活用ポイント」を整理していきます。
政府のコロナ克服・新時代開拓のための経済対策として、今年2月に始まった介護職員処遇改善臨時特例交付金が9月末に期限が満了となり、10月には新加算が創設となります。新加算の計画書作成や計算などに関する不明な点は申請先の各自治体(指定権者)に確認していきましょう。
【確認keyword】
「ベースアップ等加算の算定と申請における確認事項」 「臨時特例交付金と異なる点」「3階建てとなる処遇改善加算の位置づけ」 「改定対策のポイントとなる職場環境等要件」
[Ⅰ]ベースアップ等加算の新設と申請における確認ポイント
■ 新設されるベースアップ等加算の算定に向けた確認事項
2022年10月より介護職員の収入を3%程度(月額9,000円相当)引き上げの措置を講じるため、「介護職員等ベースアップ等支援加算(以下、ベースアップ等加算に略)」が新設されます。「ベースアップ等加算」を取得するには計画書を自治体に提出する必要があり、10月から算定開始の場合は8月31日まで(期日を過ぎて到着した場合は11月以降からの加算適用)、11月以降に算定を開始する場合は、その月の前々月の末日までに計画書の提出が必要となっています。なお、2022年9月に終了となる「介護職員処遇改善臨時特例交付金」を申請・受給していなくとも新規に申請することが可能です。
処遇改善加算の算定において「処遇改善計画書」と「実績報告書」の提出が求められており、処遇改善のための加算額が確実に職員の処遇改善に充てられることが担保された仕組みとなっています(下図)。申請や報告に手間がかかるものの、魅力ある職場づくりや継続的な育成に欠かせない点を再認識して積極的に取り入れていくことが大切です。

■ ベースアップ等加算の算定と申請における確認事項
「ベースアップ等加算」は「介護職員処遇改善臨時特例交付金」と同様に、介護職員を対象に、賃上げ効果が継続される取り組みを行うことを前提として、収入を3%程度(月額9,000円)引き上げることを目的とした新たな加算です。9月までの臨時特例交付金を受給していれば、10月から新加算に移行しやすいといえますが、自動的に新加算に移行される訳ではなく、改めて申請が必要になる点に留意しなければなりません。
申請に係る計画書作成のポイントとしては、「ベースアップ等加算」の加算率が現行の処遇改善加算等と同様の取扱いとなり、計算方法と割合が臨時特例交付金(交付率)と異なるため、見込み加算額も若干変動する点に注意していく必要があります。そして、交付金では利用者負担には関係しませんでしたが、10月から介護報酬上の加算となることで利用者負担が発生する点も交付金の違いとして押さえておきましょう。
そして、計画書作成においては、交付金と同様に加算額の2/3以上をベースアップに利用する取得要件をどのようにしてクリアするか、介護職員のみならず他の職員の処遇改善にいかに充てていくか等を検討していく必要があります。今回の交付金から加算への組み換えにおいては、交付金の配分ルールなどをそのまま加算に踏襲して作成することも可能ですが、もし交付金における支給対象やその配分などに問題が生じていれば、一旦リセットして計画書の修正ができ得るタイミングとなります。ベースアップ要件の「基本給」または「毎月決まって支払う手当」に不具合がないか、事業者の持ち出しが想定外に膨らんでいないか、他の処遇改善加算や全体の支給額などの整合性も再確認できる機会として活用できます。「毎月決まって支払う手当」に関しては、手当自体の金額が0円にならなければ変動しても構わないことから、2/3以上を毎月変動する「介護報酬の請求実績に連動した手当」に充て、残りの1/3を一時金支給で調整することで、事業者の持ち出しを最小限に抑えることが可能です。
今回の「ベースアップ等加算」の申請書類は、各自治体が配信する最新の様式を用いる形となります。処遇改善加算・特定加算と同様に、年度ごとに計画書及び実績報告書の提出が必要です。2022年度に処遇改善加算・特定加算を既に取得済みで「ベースアップ等加算」のみを提出する場合は「基本情報入力シート」→「様式2-4」→「様式2-1」の順に作成(下図)を行い、不明な点があれば記載例を参照しながら作成を進めていきます。特に注意すべき点は、様式2-1における「賃金改善を行う場合の賃金の総額」は(年間ではなく)年度単位の記入が必要であり、今回は10月開始のため「2022年10月~2023年3月=6ヵ月分の見込額」の記入となることです。これに関係する「前年度の賃金の総額」は前年度の12ヵ月分の賃金総額を2で割って6ヵ月分として入力します。

[Ⅱ]3階建てとなる処遇改善加算の位置づけと活用ポイント
■ 処遇改善に係る加算全体の概要とイメージ
現行の「処遇改善加算」と「特定加算」に加えて、2022年10月より「ベースアップ等加算」が追加されて、処遇改善加算は3階建ての評価となります(下図)。介護職員に対する賃金改善は、介護業界の繁栄や介護職員の定着、キャリアアップ制度の構築、利用者への質の高いサービス提供などに繋がる点において喜ばしいことばかりです。しかしながら、計画書や報告書の作成や申請を行う経営者や事務担当者においては、申請の労力や労務管理の手間が年々膨らんでいるのが実情であり、賃金改善される職員は経営者の経営努力があって成り立っていることを理解していくことが大切です。労使双方の処遇改善への積極的な関与が、制度を活用していくうえでの重要なポイントになります。

■ 3つの処遇改善加算の導入背景や特徴
ここでは、3つの加算の導入背景や特徴を確認していきます。「処遇改善加算」は、2011年度まで実施されていた介護人材の処遇改善事業における「介護職員処遇改善交付金」による賃金改善の効果を継続する観点から、2012年度から交付金を介護報酬上の評価として加算に組み換えて、介護職員の賃金改善に充てることを目的に創設された加算です。2021年度の介護報酬改定において要件が一部見直しとなり、現在はI型~III型の全3区分となっています。次に創設された「特定加算」は、介護人材確保の取り組みをより一層進めるため、経験・技能のある職員に重点化を図りながら、介護職員の更なる処遇改善を進めるうえで新たに2019年10月に創設された加算です。要件に応じたI型とII型の全2区分となっています。なお、この加算を算定するためには「処遇改善加算」のI型~III型のいずれかを算定している必要があります。
「ベースアップ等加算」は、前述したように2022年2月から9月までの「介護職員処遇改善臨時特例交付金」による賃上げ効果を継続する観点から、「処遇改善加算」及び「特定加算」に追加されて2022年10月に創設される加算です。この加算を算定するためには「処遇改善加算」のI型~III型のいずれかを算定している必要があります。
それぞれの加算のポイントを列挙すると、下表のように整理されます。なお、加算率はサービス別に設定されていますが、各加算の規模を比較するうえで加算率の高い「訪問介護」を引用しています。各自、それぞれの加算率を再確認いただければと思います。

こうして3つの加算が強化される中、加算総額が年々増額してきたため、「ベースアップ等加算」の計画書作成のタイミングで、加算の活用状況や課題を洗い出し、賃金支出の全体を見渡して、3つを合算した加算金の会計管理・運用見込みを再確認していくことが重要になります。とりわけ賃金支出は、予期せぬ人員の入退職に左右されて変動しやすい側面もあり、人員増減をシミュレーションして見通しを立てることも大切です。
そして、「特定加算」と「ベースアップ等加算」は「処遇改善加算」の取得自体が要件になっており、3つの加算の柱となっている点に注目していきましょう。加算率の高さは支給額に直結するため、上位区分へのランクアップを目指していくことが、今後の取り組みの道標となります。介護報酬の特性を踏まえた着眼点としては、改定の都度、算定要件がテコ入れされる傾向があり、要件の見直しが次回もあり得ると意識していくことが肝要です。したがって、上位区分のI型を算定していても安泰ではなく、改定における要件の厳格化を予見し、先手で取り組んでいくことが改定対策となり、賃金アップと職員の定着率を高め、経営を安定化させていくうえで重要なポイントになります。
■ 改定対策のポイントとなる職場環境等要件
2024年度は第9期介護保険事業計画のスタートを迎えると共に、診療・介護報酬の同時改定であるなど、社会保障制度全体の変革や医療と介護の整合性が進められるタイミングであることから、大幅な見直しが予想されます。改革のトレンドとしては「地域包括ケアシステム」の構築や「地域共生社会」の実現を目指す制度の方向性は変わらず、介護人材に関わる「生産性の向上」「テクノロジーの活用(科学的介護の実現)」「介護現場のタスクシェア・タスクシフティング」「文書負担の軽減」の課題に対する見直しが予見され、これらのキーワードを意識した取り組みが改定に向けて重要になるでしょう。
そして、コロナ禍における非接触サービスの技術の進展に伴い、様々な産業や企業でデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速し、介護分野においても同様に、介護ロボット・ICT 導入が推奨されている点にも注目です。介護ロボット・ICT 導入は、改定による要件厳格化への対策のみならず、働き方改革対応としても有益に活用できます。「処遇改善加算」の職場環境等要件(下図)を利用者や介護職員から選ばれる介護事業者の目指す指標と位置づけ、地域医療介護総合確保基金の導入支援補助金の活用も視野に入れて取り組みを加速させることも重要なポイントになります。賃金アップが処遇改善の中心的な話題になりがちですが、職場環境等要件をはじめとする処遇改善への介護職員の積極的な関与が賃金アップに外せない条件である点を再認識することが大切です。経営者は、現状クリアしている要件と今後クリアを目指す要件を職員に共有し、組織内のベクトルを合わせて取り組んでいくことで、強固な組織基盤を築いていけるでしょう。

▼今月号の考察
今回は、2022年10月1日に新設となる介護職員等ベースアップ等支援加算のほか、現行の処遇改善加算に関する確認事項として、申請の確認ポイントや加算の活用ポイントを整理しました。制度が複雑化してきたため、経営者は職員の誤解や不満にならないよう情報を開示して、丁寧に説明していくことが大切です。以上、事業運営の一助としてご参考にして頂ければ幸いです。
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