ヘルスケア最新情報TOPIX「介護編」 2023.8月号
「2024年介護保険制度改正に関するポイント整理」
今月号は、2024年介護保険制度改正をテーマに、5月19日に公布された介護保険法の改正内容や2024年度介護報酬改定の審議動向を踏まえ、「I.2023年介護保険法改正に係る改正点とポイント」を確認し、「II.2024年度介護報酬改定の方向性とスケジュール」を整理していきます。
高齢化に伴う急速な介護給付の増大に対応するためには、給付と負担の見直しが不可欠ですが、今回の介護保険法の改正では結論が先送りされ、介護サービスの新設や利用者負担の見直しは盛り込まれませんでした。今回の改正は保険運営に関わる見直しがメインであるものの、介護事業者に関わる2024年度介護報酬改定との関連性に着目していくことが重要なポイントになります。
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「2023年介護保険法改正の5つの改正ポイント」 「LIFE情報・ケアプランのデータ収集」 「財務状況等の見える化」 「第9期計画における生産性向上の取り組みの記載(努力義務)」
[Ⅰ]2023年介護保険法改正に係る改正点とポイント
介護保険法は、2000年の施行以降、3年毎に見直しされる介護保険事業(支援)計画に反映させるため、計画開始年の前年に改正が行われてきました。今回も通常通り、2024年度開始の第9期計画と介護報酬改定に向けて、2023年に法改正が行われました。今回の改正は保険運営(行政サイド)に関わる見直しがメインになりますが、すべての介護事業者に直接関わる(1)~(3)の見直しも押さえておきたいポイントになります。施行時期は(1)を除く(2)~(5)が2024年4月となっています(下図)。

(1)介護情報基盤の整備
介護情報基盤の整備は2024年度中に運用開始を目指す「全国医療情報プラットフォーム」の構築に関わります(2024年4月施行ではありません)。プラットフォームの構築により、現在の分散された利用者に関わる介護情報を収集・活用していくことが可能となり、関係者が必要なときに必要な情報を閲覧できるようになります。介護事業者が関わるLIFE情報・ケアプランのデータ収集は、2024年度介護報酬改定での評価に直結する可能性があるため、改定に向けたシステム対応の準備がポイントになるでしょう(下図)。

(2)介護事業者の財務状況等の見える化
今回の改正により、すべての介護事業者に対し、経営情報を都道府県に定期的に届け出る仕組みが導入され、そのデータを活用した政策の企画立案、介護従事者の処遇改善、経営支援などに役立てるデータベースの整備が進められます(下図)。収集した情報をもとに属性等にグルーピングした分析が可能となり、その結果が公表される予定です。収集される介護経営の情報としては「費用(材料費・給与費・経費・委託費・研修費・減価償却費・徴収不能額・支払利息・引当金繰入額・職種別の給料及び賞与)」と「収益(介護収益・事業外収益・本部費)」が検討されています。経営情報の公表は2017年度に稼働されている「社会福祉法人の財務諸表等電子開示システム」、データベースの整備は介護に先駆けて「医療法人の経営情報に関するデータベース」が2023年8月に施行されています。今回の改正も、財務状況の公表を通じて、経営の透明性を高めるガバナンスの強化を図る意図があり、経営者・会計担当者はその点を理解して準備を進めていく必要があります。

(3)介護事業者における生産性向上に資する取組の努力義務
厚労省は、処遇改善などの総合的な介護人材確保とともに、人材不足を補うために、生産性向上の推進、介護ロボットなどのテクノロジーの活用、介護現場のタスクシェア・タスクシフティング、経営の大規模化・協働化等を推進しています。今回の改正では、第9期介護保険事業計画における生産性向上の取り組みの記載が都道府県の努力義務となり、新たに計画に反映される模様です(下図)。介護分野の生産性向上は、工場などの生産ラインの見直しによる生産量の拡大とは異なり、「限られた介護人材で一人でも多くの利用者に質の高いケアを提供すること」、「業務の効率化や改善で利用者に向き合う時間を増やすこと」を目的としている点を再認識しておくことがポイントになります。

生産性向上の取り組みは、すべての都道府県において2023年度から数年かけて「介護生産性向上総合相談センター(仮称)」を設置し、介護事業者に「介護ロボット・ICT導入の支援」「業務改善の支援」「生産性向上の推進」についてワンストップ型の支援を実施していく計画となっています(下図)。総合相談センターの設置により、都道府県では介護現場のニーズを把握した現場の実態や地域の特性に応じた対応や支援が可能となり、兼ねてより介護事業者が支援を受けるハードルとなっていた支援メニュー毎に実施主体が異なり、対応する窓口が各々で手続きが煩雑であった点が解消されます。介護事業者の生産性向上に関わる取り組み強化には、総合相談センターの活用が鍵を握っています。

(4)看護小規模多機能型居宅介護のサービス内容の明確化
この見直しは、現行の「訪問看護および小規模多機能型居宅介護」の表記が改められ、介護保険法で明確に「看護小規模多機能型居宅介護」と定義づけされた改正となります(下図)。看多機は、今後さらに高まる在宅での医療ニーズに対応できるため、期待度が高く、多くの自治体では施設整備費補助金を設けて推進しています。新設を検討の際には「看多機管理者のための経営・マネジメントの手引き(全訪看)」が参考になります。

(5)地域包括支援センターの体制整備等
現行では、要支援者に対する「介護予防支援」は地域包括支援センターの業務に位置づけられていますが、今回の見直しによりケアマネ事業所が市町村の指定を受けて実施できるように変わります(下図)。この見直しは、停滞する総合事業を立て直す意味合いが強く、地域包括支援センターの負担を軽減し、センター機能の強化が目的になります。

[II]2024年度介護報酬改定の方向性とスケジュール
今回の2023年介護保険法改正における5つの事項は、2024年度開始の第9期介護保険事業(支援)計画と介護報酬改定に反映される見直しになります。具体的には、2024年度介護報酬改定の見直しでは、運営基準や加算の要件などに「(1)DX基盤の整備」「(2)経営情報の見える化」「(3)生産性向上の取組強化」が追加される可能性があります。
2024年度改定に向けたテーマに関しては、コロナ禍の2021年度改定の5つの柱のうち「感染症等の対応」を除く「地域包括ケア」「自立支援・重症化防止」「介護人材の確保」「制度の持続性」といった4つのキーワードを踏襲する方向で検討されています(下図)。これらは2018年度改定から打ち出されているキーワードであり、2024年度改定はこれまでの延長線上の中で、不具合の見直しとテコ入れが行われるものと予想されます。
また、改定スケジュールも例年のタイミングで2024年1月に改定案が答申(見直し事項の決定)となる見通しです。2024年度改定で留意すべき点は、異次元の少子化対策の財源確保として、マイナス改定に直結しうる社会保障費の歳出改革が断行される点であり、政府の歳出改革や予算編成の動向に対しても注視していかなければなりません。

▼今月号の考察
今回は、2024年介護保険制度の見直しに関するポイント整理として、2023年介護保険法改正に係る改正点と2024年度介護報酬改定の方向性などを確認しました。今回の介護保険法改正は、介護サービスの新設などの目玉はなく、インパクトは少ないものの、介護事業者に関わる改正点もあるため、特に2024年度介護報酬改定との関連性に着目して対策を練っていくことがポイ ントになります。以上、介護経営に関わる最新動向としてご参考にして頂ければ幸いです。
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