ヘルスケア最新情報TOPIX「介護編」 2024.02月号
「2024 年度介護報酬改定の変更点と注目ポイント」
今月号では、1月22日に社会保障審議会介護給付費分科会で了承された改定単位の答申情報を踏まえ、「Ⅰ.2024年度介護報酬改定における主だった変更点」を整理し、「Ⅱ.2024年度介護報酬改定の注目すべきポイント」を確認していきます。
2024年度改定はプラス改定の恩恵を受けて基本報酬は大半が微増となる中、「訪問介護」「夜間対応型訪問介護」「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」「介護予防訪問リハビリ」が微減となり、サービス毎に明暗を分ける見直しとなりました。改定では「情報連携」「入退院支援」「認知症対応」の加算が新設・重点化されるため、これらの加算取得が経営安定化の鍵を握っていくでしょう。
【確認keyword】
「処遇改善加算の刷新による一本化」 「LIFEの3つの改善点(評価方法、データ提出頻度、フィードバック)」 「協力医療機関との連携体制」 「入退院時のリハ情報連携」
[Ⅰ]2024年度介護報酬改定の注目すべきポイント
2024年度改定の主だった変更点を整理すると、診療報酬改定との兼ね合いで施行時期が6月1日になる一部サービスがある点をはじめ、「処遇改善加算」の刷新や「LIFE」のテコ入れ、「協力医療機関」との連携強化が注目される見直しといえます。この他の見直しでは、「BCP未策定」と「高齢者虐待防止・身体的拘束等の適正化」の義務化に対応できない場合のペナルティとして基本報酬の減算が導入されて、コンプライアンスが重視される点に留意していかなければなりません。他方、「複合型サービスの新類型」などの今改定で見送りとなった事項もあり、今後の動向も注目されるところです(下表)。

[II]2024年度介護報酬改定における主だった変更点
■ 処遇改善加算の刷新を見直しに係るポイント
プラス改定の財源確保により、介護職員の処遇改善の活用がさらに広がるよう、現行の「介護職員処遇改善加算、介護職員等特定処遇改善加算、介護職員等ベースアップ等支援加算」の各区分の要件及び加算率を組み合わせて「介護職員等処遇改善加算(以下、新加算に統一)」に一本化となります。新加算は、4段階の要件と加算率に傾斜が設けられ、現行要件が一部見直しとなり、激変緩和措置として2024年度末まで経過措置が設けられます。新加算の施行時期は2024年6月となり、2024年2~5月は2023年度補正予算の「介護職員処遇改善支援事業」による新たな「介護職員処遇改善支援補助金」を活用して、申請手続きを進めていくことが肝要です(1月25日公表の計29問の厚労省Q&Aを参照)。
今回改められる要件見直しのポイントを整理すると、現行の「特定処遇改善加算」における職種間の賃金配分ルールが見直しとなり、新加算では引き続き介護職員への配分を基本とし、特に経験・技能のある職員に重点的に配分することとしつつ、職種に着目した配分ルールは設けず、事業所内で柔軟な配分が認められる形に改められます。
また、2022年2月に創設された「処遇改善支援補助金」から始まった月給のベースアップの推進は、2022年10月改定における「介護職員等ベースアップ等支援加算」に引き継がれ、今回の月額賃金の改善要件では、一時金ではなく月給として配分する金額の増額が求められている点に注意しなければなりません(下図)。2024年度予算は、30年ぶりの経済の明るい兆しを経済の好循環につなげるためには物価に負けない賃上げが不可避であるとして「経済の好循環の起点となる賃上げの実現」を目指した予算配分が特徴的であり、新加算においても月額賃金の改善要件が重視された形となっています。

そして、職場環境要件の見直しにも留意していかなればなりません。現行の「特定処遇改善加算」に相当する「新加算Ⅰ・Ⅱ」では各区分にそれぞれ2つ以上(生産性向上は3つ以上、⑰「業務改善活動の体制構築」または⑱「現場の課題の見える化」が必須)、「処遇改善加算」に相当する「新加算Ⅲ・Ⅳ」では各区分にそれぞれ1つ以上(生産性向上は2つ以上)取り組む必要があり、激変緩和措置として2024年度中は職場環境要件の実施は猶予される予定です。生産性向上に向けた取り組みは、見守り機器・インカム等のICTシステムを導入するキッカケとなり、生産性向上ガイドラインの遵守が不可欠となります。ICTシステムは、介護職員の業務負担を軽減して効率を上げ、慢性的な人手不足の解消や科学的介護の推進にも直結するため、積極的な活用が望まれています。
■ LIFEの3つの改善点に関するポイント整理
2024年度改定におけるLIFEの見直しでは、介護事業者間で共有する介護情報の1つとして、介護情報基盤の整備を見据えたテコ入れが行われます。まず、複数の加算で共通する項目の評価方法を統一し、各加算で入力が必要な項目を一覧化して、複数の加算を算定する際に重複入力をしなくて済むようになり入力負担の軽減が図られます(下図)。

また、各加算のデータ提出頻度について、サービス利用開始月より入力する加算もあれば、サービス利用開始後の計画策定時に入力する加算もあり、同一の利用者であっても算定する加算によって入力のタイミングが異なり、管理が煩雑となっている点を改善するため、LIFEへのデータ提出について少なくとも3ヵ月に1回と統一になります。ただし、月末よりサービス利用を開始する場合や、当該利用者の評価を行う時間が十分確保できない場合など、初回のデータ提出に猶予期間を設けて調整が図られます(下図)。

そして、フィードバックの見直しでは、事業所フィードバックは自事業所と平均要介護度が同じ事業所との比較、利用者別フィードバックでは同じ要介護度の方との比較、地域別等のより詳細な層別化、複数の項目をクロス集計すること等が改められます。
■ 協力医療機関と連携体制を再構築する必要性
介護保険施設や高齢者施設の入所者及び入居者の生命を守る観点から、施設等と医療機関の連携強化を図ることは喫緊の課題となっています。現行では「協力医療機関」を定めることは運営基準における規定となっているものの、 「協力医療機関」の種別や協力内容については規定がなく、連携内容は様々という実態があります。今回の見直しでは形式的な関係ではなく、定期的な会議の実施や入院時の情報提供などの体制整備が求められ、「協力医療機関連携加算」や「退所時情報提供加算」が新設・見直しとなります。
具体的には、介護保険施設では、入所者の急変時等に、相談対応や診療を行う体制を常時確保した「協力医療機関及び緊急時に原則入院できる体制を確保した協力病院」を定めることが義務化(3年間の猶予措置後に2027年度に義務付け)となります。同時に、「協力医療機関」が新興感染症の発生時等の対応に係る「協定締結医療機関」である場合には、当該協力医療機関との間で協議を行うことも義務付けとなります。ただし、特定施設とグループホームに対しては努力義務となっています(下図)。

「協力医療機関」に関する見直しは、介護報酬だけでなく診療報酬にも及び、2024年度診療報酬改定では、施設の「協力医療機関」が入所者の病状急変時における受け入れや往診に対する新たな評価が設けられます。具体的には「在宅療養支援病院・診療所」「在宅療養後方支援病院」「地域包括ケア病棟」に対し、介護保険施設の求めに応じて「協力医療機関」を担うことが望ましいと明示され、介護保険施設と医療機関との適切な連携体制の構築が推進されていきます。つまり、こうした医介相互の見直しに伴い、これまで施設からの受入に対応してきた「地域医療支援病院」などの急性期病院では受入に難色を示すケースもあり得るため、これまでの連携体制がリセットされる点を理解し、医療機関との連携体制の再構築を進めていくことがポイントになります。
■ 入退院時の情報共有とリハビリテーションの促進
前述した「協力医療機関」に求める役割を、治療や手術に特化した急性期から回復期・在宅医療に転換させていくうえで特に重視されているのが、利用者に係る入退院時の情報共有と日常に戻すためのリハビリテーション(以下、リハに略)になります。
入退院時の情報連携に関する評価の見直しは、退院後早期に介護保険のリハを開始することを可能とするため、介護支援専門員が居宅サービス計画に訪問・通所リハを位置付ける際に意見を求める主治医等に、入院中の医療機関の医師を含むことが明確化されます。訪問・通所リハでは、退院時の情報連携を促進し、退院後早期に連続的で質の高いリハを実施する観点から「医療機関のリハ計画書の受け取りの義務化」として、入院中にリハを受けていた利用者に対し、退院後リハを提供する際にリハ計画を作成するに当たって、入院中に医療機関が作成したリハ計画書を入手し、内容を把握することが義務付けとなります。併せて、退院時の情報連携を促進し、退院後早期に連続的で質の高いリハを実施する観点から「退院後早期のリハ実施に向けた退院時情報連携の推進」として、医療機関からの退院後に介護保険のリハを行う際、リハ事業所の理学療法士等が医療機関の退院前カンファレンスに参加し、共同指導を行ったことを評価する「退院時共同指導加算(600単位/回)」が新設される形となります(下図)。
リハ関連の見直しは医介同時改定が絶好のタイミングであって、入退院を繰り返しやすい利用者に関わる見直しとして、当該リハ事業所のみならず、居宅・施設サービスの区分に関係なく、すべての介護事業者において押さえておくことが肝要です。

▼今月号の考察
今回は、2024年度改定に係る改定単位の答申情報を踏まえ、主だった変更点と注目ポイントを確認しました。2024年度改定はプラス改定の恩恵を受けて大半が基本報酬の微増となり、その追い風で新設・重点化された「情報連携」「入退院支援」「認知症対応」関連の加算取得を目指していくことが経営安定化のポイントになります。以上、ご参考にして頂ければ幸いです。
・本資料は情報提供のみを目的としたものであり、いかなる取引の勧誘或いは取引を確認するものではありません。
・本資料に記載された内容は、現時点において一般に認識されている経済・社会等の情勢および当社が合理的と判断した一定の前提に基づき作成されておりますが、当社はその正確性・確実性を保証するものではありません。また、ここに記載されている内容は、経営環境の変化等の事由により、予告なしに変更される可能性があります。
・本資料のご利用並びに取り組みの最終決定に際しましては、ご自身のご判断でなされますよう、また必要な場合には顧問弁護士、顧問会計士などにご相談の上でお取り扱い下さいますようお願い致します。
・当社の承諾なしに、本資料の全部または一部を引用または複製することを禁じます。
★「ヘルスケア最新情報TOPIX「介護編」2024.02月号」(PDF形式)のダウンロードは こちら から
■ 提供:株式会社 医療経営研究所