ヘルスケア最新情報TOPIX「介護編」 2024.04月号
「2024年度同時改定による医介連携とACPの推進」
今月号では、2024年度介護報酬改定と2024年度診療報酬改定の答申情報を踏まえ、「Ⅰ.協力医療機関の見直しによる医介連携の推進」を整理し、「Ⅱ.医介連携におけるACPへの関与とその重要性」を確認していきます。同時改定による「医療と介護の連携(以下、医介連携に略)」に関する新たな義務付けや報酬上の評価は、高齢者の医療・介護提供体制に関する見直しであることから、関与するケアマネジャーや介護施設等のみならず、すべての介護事業者が押さえておきたい変更点となります。今回は「協力医療機関」と「ACP」についてポイントを整理していきます。
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「協力医療機関は在宅療養支援診療所、在宅療養支援病院、在宅療養後方支援病院、地域包括ケア病棟に限定」「診療報酬改定における入院・在宅へのACP推進の波及」
[Ⅰ]協力医療機関の見直しによる医介連携の推進
2024年度改定は、診療報酬と介護報酬の同時改定により、医介連携の推進における評価が拡充された点に注目です。とりわけ2024年度診療報酬改定では、高齢者の救急搬送や入院の新たな受け皿として「地域包括医療病棟」が創設された点や、医介連携に関わる「協力医療機関」の見直しが図られたことで、高齢者の救急医療や入院医療のテコ入れが行われた点は今までの医療・介護提供体制のスキームを変えるインパクトのある見直しとなりました。医介連携に関わる見直しは下図の5つがあり、介護保険施設等における「協力医療機関」の明確化により入院受入れと往診の体制が再編される点に注目です。また、感染症対策の体制整備や、リハビリテーションと栄養指導における連携強化も利用者に関与する見直しとなります。そして、2021年度介護報酬改定で施設等の看取りの対応として組み込まれた「ACPの推進」は今回の診療報酬改定において「入院医療」と「在宅医療」にも反映されたことで医介連携に外せないピースになっていくでしょう。

介護保険施設や高齢者施設の入所者及び入居者の生命を守る観点から、施設等と医療機関の連携強化を図ることは喫緊の課題となっていました。従来は、施設等が「協力医療機関」を定めることは運営基準の規定となっていたものの、「協力医療機関」の種別や協力内容については規定がなく、連携内容は各々に委ねられてきたのが実情です。
今回盛り込まれた医介連携の推進では、「施設等の協力医療機関」が回復期入院医療や在宅医療を手掛ける「在宅療養支援診療所、在宅療養支援病院、在宅療養後方支援病院、地域包括ケア病棟」と具体的に指定され、施設等の求めに応じて連携する旨が当該医療機関の施設基準に明示されました。これに連動し、施設等に対しては、入所者の急変時等に相談対応や診療を行う体制を常時確保した「協力医療機関」を定めることが義務化(3年間の猶予、2027年度に義務付け)となりました(特定施設とグループホームは努力義務)。「施設等と協力医療機関」の体制整備では「(1)平時からの連携」「(2・3)急変時の相談対応と医療提供」「(4)入院調整」「(5)早期退院」が求められています(下図)。

具体的には、以下の5つを満たす協力医療機関(③は病院に限定)を定めることが介護保険施設に義務付けられ、特定施設とグループホームでは③以外が努力義務となりました。これらの要件は複数の医療機関と連携して満たすことも可能となっています。

[II]医介連携におけるACPへの関与とその重要性
■ 介護事業者がACPに関与するタイミング
2024年度診療報酬改定における「入院医療」と「在宅医療」の「ACP」に関する義務付けや評価により、介護現場にも広く「ACP」が波及されていく可能性が高まりました。
利用者の「ACP」による意思決定は、家族や主治医だけに伝えられるものではなく、接触頻度の高い友人や介護職などに語られることも少なくなく、何気ない日常生活の延長線上に「ACP」があります。「ACP」は年齢や病状に関わらず、すべての人が有する価値観や人生のゴール、将来の医療やケア対する選好を理解・共有し、それを適えることを支援するプロセスであり、人の意思は心身の状態の変化に応じて変化することを前提としている特徴があります。作成のタイミングは、病気や介護が必要になる前から、いつでも話し合いたい時に始め、一度決定すれば終わりではなく「意思は変わること」が前提であるため、都度「話し合いを繰り返すこと(ACPの修正・追加)」が重要になります(下図)。

利用者が「ACP」による意思決定を突然迫られても答えを導き出すことは容易ではなく、まして特養や介護医療院の入所者は重度者(要介護4・5)が多く、入所後に「人生の最終段階において、どのような医療・介護を受けたいか、受けたくないか」の意思を本人に確認することは難しいのが実情であり、早期の介入がポイントになります。
「ACP」を再考するタイミングや修正する時期は、例えばケアプランの見直しをはじめ、生活環境や体調・病状が変化した時、病状の悪化から治療の方針が変わった時、ADLに大きな変化があった時など、次なる目標に沿って話し合いを重ねていくことが大切です。介護事業者における利用者の「入院医療」や「在宅医療」を担う医療機関との関わり方は、今後は「ACP」を介した連携が増える中で、利用者の意思決定を支援するサポーターとして、パスポートのような形で「ACP」をつなぐ医介連携の実践が重要になるでしょう。
■ 介護事業者のACPをもとにした医介連携の強化
「ACP」を勧めるルートは、一般に集団アプローチと個別アプローチに大別されます(下図)。集団アプローチは、地域包括支援センターを中心に市民講座などを企画して地域住民へ「ACP」を知ってもらう啓蒙活動です。他方、個別アプローチは2つあり、1つは健康な人・体調が安定している人向けに、地域包括支援センターやケアマネジャーを中心に将来的な意向を一緒に考える延長線上で「ACP」を勧めていきます。もう1つは主治医が病状説明時に確認したり、看取り期に携わる主治医の橋渡しを担うケアマネジャーや介護・福祉職が関与するケースがあります。今回の診療報酬改定による見直しはこの部分に該当し、主治医のみならず、「入院医療」や「在宅医療」に関わるすべての医療機関において「ACP」を踏まえた対応へと変化していく点に留意しなければなりません。

利用者の「ACP」を把握していない医療機関に対しては、介護・福祉職が本人や家族等の意向を引き出し、積極的に介入していくことが大切です。もちろん本人の同意があって関係者と情報共有ができるため、利用者との良好な関係構築が欠かせません。多職種による「ACP」の共有は特別な関係性が必要ではなく、普段の医介連携があれば成り立つものであり、入退院時の引継ぎや利用者情報の共有において、日頃から医介連携を意識した取り組みを重ねていくことで、円滑に「ACP」の情報共有も図れるでしょう(下図)。
■ 介護事業者におけるACPの意思決定支援のポイント
介護事業者が「ACP」に関与する第一歩は、利用者の取り組み状況を確認することから始まります。「ACP」を知らない利用者がいれば、各自治体が推奨している書き込み式の「ACPツール(東京都は「わたしの思い手帳」という小冊子、大阪府は「だから今、人生会議」という記録シートを展開)」を案内することで周知が可能です。
「ACP」は「人生会議」の愛称で推進されていますが、実際にも会議のように「①主治医の病状説明 ②本人の思い ③家族の思い ④医療・ケアの希望 ⑤今後の方針」を話し合い、その話し合った内容の議事録が「ACP」そのものとなるイメージです(下図)。普段行われている本人や家族の参加による「サービス担当者会議」などの身近なカンファレンスの延長線上に「最期の希望」の視点を見据えれば、現状の課題に加え、未来に向けた対応を付加していくことで、「ACP」の意思決定支援が可能となっていきます。

「ACP」の最終目標は、本人・家族等・医療・介護・福祉職が本人の希望に沿った対応をしていくことですので、「ACP」を文書で残すことにこだわる必要はなく、記録することに抵抗感を示す場合には、情報共有ができるのであれば文書作成や形式にとらわれる必要はありません。そして、本人と家族等で意見が異なり、まとまらない場合は無理に決めることはなく、そのまま記録に残し、時期をおいて繰り返し話し合いを重ねていきます。
介護事業者による「ACP」の意思決定支援は、利用者本人を中心に話し合うことが最も大切なことであり、本人不在では成り立ちません。このため、いかに「②本人の思い」を引き出し、「③家族の思い」もチームで共有しながら「⑤今後の方針」を決定していくことがサポートの基本となります。本人の意向を引き出すには、「将来、身の回りのことが難しくなったらどのようにしていきたいですか?」「自分の思いを家族と共有し、必要な場面で関係者間で共有していきましょう」などと声掛けしていくことが重要です。
▼今月号の考察
今回は、2024年度同時改定による医介連携と「ACP」の推進に関するポイントを整理しました。介護事業者は、医療機関が新たに「ACP」の意思決定支援に介在する今回の見直しを踏まえ、利用者の「ACP」に関心を持つことで円滑な医介連携につなげていくことがポイントになります。以上、利用者へのサービス提供に関わる同時改定の話題としてご参考にして頂ければ幸いです。
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