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ヘルスケア最新情報TOPIX「介護編」 2024.09月号


「介護経営情報データの報告義務化への対応策」

 今月号では、2024年4月施行の改正介護保険法において法定化された「介護サービス事業者経営情報の調査及び分析等に関する制度」の介護保険最新情報(Vol.1297、1298、1305)をもとに、「Ⅰ.介護経営情報データの報告義務化の概要とポイント」を確認したうえで、「Ⅱ.経営情報データの分析を経営改善に活用する着眼点」を整理していきます。経営情報データの初回の報告期限が「2025年1~3月」と決定されたため、対策が迫られてきた点に注視していきましょう。

【確認keyword】
「経営情報データの報告義務化における“報告対象・報告事項・報告手段・報告スケジュール” 」「データ分析による経営改善への活用」「自己診断システムにおける現状確認と経営改善の道案内」

[Ⅰ]介護経営情報データの報告義務化の概要とポイント

■ 介護経営情報データの報告義務化の概要とポイント

 これまで介護事業者の収支データ等の収集は、3年毎に実施される「介護事業経営実態調査」として厚労省が実施してきましたが、一部の調査結果に過ぎず、介護業界全体の財務状況を的確に把握できない問題点がありました。そして、現在は社会福祉法人などに対し、経営の透明性を担保するため財務諸表の提出と公表が義務化されています。

 そこで、2024年4月に施行された改正介護保険法において「介護サービス事業者経営情報の調査及び分析等に関する制度」が法定化され、基本的にすべての介護サービス事業者に対して経営情報データの報告が義務化となりました。これにより、介護事業者は経営情報データを毎年度定期的に各都道府県へ提出し、そのデータを国が新たに構築する「介護事業財務情報データベースシステム(仮称)」で管理するとともに、収集した情報は属性などに応じてグルーピングした分析結果として公表される形となります(下図)。

 こうした報告義務化により、介護報酬改定や制度改正において不可欠な収支や人件費などの経営情報を正確に把握でき、より的確な政策を行ううえでのエビデンスを集約していくことを目指しています。そのため、介護事業者への報告義務化に反するような「未提出」「虚偽の報告」に対し、都道府県は是正を命令でき、その命令に従わない場合には「指定取消」「業務停止」の処分の罰則規定が設けられた点に留意しなければなりません。

■ 経営情報データの「報告対象」と「報告事項」

 基本的には、すべての介護サービス事業者が報告対象となり、みなし指定の保険医療機関等においても報告対象となります(下図)。但し、「居宅療養管理指導」と「介護予防支援」は対象外とされ、この他、小規模事業者等に配慮する観点から、「①過去1年間で提供を行った介護サービスの対価として支払いを受けた金額が100万円以下のもの」「②災害その他都道府県知事に対し報告を行うことができないことにつき正当な理由があるもの」に該当する場合が対象外となります。報告の単位は、事業所・施設単位を基本とし、単体での報告が難しい場合は法人単位のサービス種別毎の報告でも構わず、都道府県単位ではなく、当該法人の全国の事業所データを一つにまとめることも可能です。

 報告すべき経営情報は、事業所・施設の「1.名称、所在地その他の基本情報」「2.収益及び費用」「3.職員の職種別人員数」「4.その他」となっています(下図)。「2.収益及び費用」の報告は会計システム等からの出力が推奨(必須ではない)され、「3.職員の職種別人員数」は会計年度の初日の属する月に給与を支払った職員数が基準となります。

■ 経営情報データの「報告手段」と「報告スケジュール」

 報告手段は「介護事業財務情報データベースシステム(仮称)」への提出となり、介護事業者が会計年度ごとに都道府県に報告する経営情報を、会計ソフト等から出力したCSVファイルとしてアップロードしたり、Webの専用フォームに入力して送信します。データベースへのログインは法人・個人事業主向け共通認証システムの「GビズIDアカウント」が必要であり、IDを取得すると、1つのIDで様々な行政サービスを利用でき、管理が簡素化できます。「GビズIDアカウント」は補助金申請などの手続きにも活用され、オンライン上での行政サービスのスタンダードとなっています。

 厚労省では「介護事業財務情報データベースシステム(仮称)」に関する運用マニュアルや、アカウントの作成方法・運用方法の手引きなどを2024年秋頃に公表する予定としており、義務化に備えていくためには、今後の最新情報に注視していく必要があります。

 初回の報告は、2023年度分の報告期限として、一律「2025年1~3月」に行うことが決定されています。その後は「毎会計年度の終了後3ヵ月以内」が基本とされ、事業者毎に提出期間が異なる設定となります(下図)。こうしたスケジュールを踏まえて、会計ソフト等の改修対応の確認を早々に行い、計画的に準備を進めていくことが大切です。

[II]経営情報データの分析を経営改善に活用する着眼点

■ 経営情報データの分析結果を経営改善に活用

 「介護事業財務情報データベースシステム(仮称)」への報告が義務化されることは、介護事業者にとって報告作業の手間やシステム対応は労力となりますが、企業の財務状況をまとめた経営情報データが経営に欠かせない情報であることを再認識し、分析したデータをいかに活用するかを考えていくことが重要な着眼ポイントになります。

 財務諸表を作成する目的は【対外】と【社内】に大別されます。【対外】的な作成目的は、利害関係者(債権者・株主・取引先)へ企業経営に関する正確な情報を開示することにより、社会的な信用を確保するとともに、事業の拡大(融資・出資・取引拡大)などにつなげることを目的とします。上場企業の場合は、証券取引法などによって適時の情報開示が義務付けられています。また、税務申告をする際にも、財務諸表(損益計算書)の税引前当期利益をもとに、会計上の収益、費用と税務上の益金・損金の異なる部分を調整して、課税所得を算出して適正な納税を行ううえでも欠かせません。

 他方、【社内】的な作成目的は、財務諸表を作成することによって、自社の経営状況を定量的に把握し、分析を加えたうえで、経営改善に役立てることができます。経営改善への活用は以下のような手順で行います(中小企業基盤整備機構HP掲載)。

 介護情報基盤は「国保中央会」による管理のもとで、基盤のデータベースは「利用者、自治体、介護事業所、医療機関」が連携・閲覧できる構想となっています(下図)。

 上記の②の段階では、各経営指標が企業の収益性、効率性、生産性、安全性、成長性のどれに関連し、自社の数値がどのようなレベルにあるか、現状を正しく認識することが大切になります。現状確認により問題点や課題の抽出ができれば、③の改善策の検討につなげていくことができます。経営指標の数値の意味や評価基準が分からなくとも介護経営は成り立ちますが、経営状況が悪い場合に、経営指標は何に原因があるかを判別するセンサーになるため、経営情報データ(財務諸表)を分析して活用することが経営改善の最たる手段となります。経営指標は事前に覚えておくものではなく、経営状況に応じて必要な時に使える状態にしておけば安心材料になります。経営指標の数値の意味や評価基準が難しいと感じ、抵抗感がある方は、中小企業基盤整備機構HPに掲載されている「経営自己診断システム」を用いて、健康診断のように現状を一度確認しておけば、不測の経営状況に陥った場合に改善の手立ての道案内として活用できるでしょう。

■ 自己診断システムにおける現状確認と経営改善の道案内

 「経営自己診断システム」は、200万社以上の中小企業データから比較ができるなど豊富な財務データの収録に加えて、決算書の財務情報を入力するだけの簡単操作で分析結果が表示され、個人情報の登録も不要であり、中小企業が利用しやすい経営分析ツールです。「経営自己診断システム」に自社の主要な財務データを入力すれば、「自社の財務分析」、「国内同業種中小企業の中の位置づけ」、「経営危険度」が表示されますので、問題点・課題を抽出する際に活用することができます(下図)。

 自己診断は、単に指標の良し悪しだけの現状確認では改善につながらず、自社の経営状況に当てはめて具体的な原因を探っていかなければなりません。分析結果を経営改善につなげるには、経営指標を悪化させている具体的な問題点や課題を抽出し、その解決策を検討したうえで、計画的に改善活動を実行することが肝要です。そして、経営改善の効果を高めるには、経営者を先頭に、関係者が経営状況の共通認識をもったうえで、一丸となって改善策の検討に取り組む必要があります。また、自前での経営分析や経営改善に自信がなければ、取引金融機関や専門のコンサルティング会社など、外部の専門家のサポートを活用していく判断も重要になります。こうした改善に向けて行動を起こしていくことは、安定した経営基盤を築いていく確かな一歩につながっていくでしょう。

▼今月号の考察

 今回は、介護事業者に関わる経営情報データの報告義務化の概要を確認し、経営情報データの分析を経営改善に活用するためのポイントを整理しました。報告期限が「2025年1~3月」と決定されたため、早々に会計ソフト等の改修対応の確認を行いつつ、データ分析による経営改善の有用性に着目していくことが重要なポイントになります。以上、ご参考にして頂ければ幸いです。

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