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ヘルスケア最新情報TOPIX「介護編」2025.6月号


「介護現場に不可欠な生産性向上委員会の重要性」

 今月号では、組織が持続的に成長し、変化する環境に適応していくために不可欠な「生産性向上委員会」のポイント整理として、「Ⅰ. 生産性向上委員会の位置づけと設置-運営のエッセンス」ならびに「Ⅱ. 介護テクノロジーの導入効果と取り組み強化のポイント」を確認していきます。

 「生産性向上委員会」の設置は施設系-居住系サービス事業者が義務化に対応していく過程で、「生産性向上推進体制加算」の取得を目指していくのがセオリーであり、義務化ではない居宅サービス事業者においても生産性向上を意識して取り組んでいくことが極めて重要になります。

【確認keyword】
「生産性向上に取り組む意義」「生産性向上委員会の設置 運営のエッセンス」「介護テクノロジーの導入効果と導入支援補助金の活用」「生産性向上に向けた取り組み強化のポイント」

[Ⅰ]生産性向上委員会の位置づけと設置-運営のエッセンス

■ 生産性向上に取り組む意義、生産性向上委員会の位置づけ

 介護現場の生産性向上は、介護テクノロジーを活用した業務効率化を図ることで、スタッフの業務負担を軽減し「介護人材の定着」を促します。同時に、利用者とスタッフが接する時間を増やし、直接的なケア業務に充てることで「介護サービスの質の向上」を目指し、様々な施策と明確な目標(KPI)が設定されています(下図)。「生産性向上委員会」の設置は、生産性向上を成し遂げるための重要な手段と位置づけられます。

 「生産性向上委員会」の設置は、2024 年度介護報酬改定において、以下の施設系-居住系サービスに対して義務付けられました(2027年3月31日まで経過措置) 。

 委員会は、事業の成長や運営に尽力する経営者と、日々の業務に追われるスタッフという異なる視点を持つ両者のベクトルを合わせる場です。経営と現場の架け橋となり、収益アップと賃金アップという共通課題や組織全体の解決策を見出す役割を担います。経営者が現場スタッフの声を理解し、スタッフも経営の厳しさを知ることで相互理解が深まり、組織の一体感と信頼感が生まれることで、離職率の低下にも貢献するでしょう。

 委員会の設置は、施設系-居住系サービスの義務化対応としては必然であり、居宅サービスにおいても組織体制強化の一環として導入していくことが肝要です。委員会の設置および開催に向けて検討すべき課題は下図の 7 つが挙げられます。委員会設置を検討する際には、これらの体裁を定め、体制の足場固めをしていくことが重要です。体裁は実情に合わせて不備を改善していくことで、より良い体制づくりが可能となります。

 「生産性向上推進体制加算」の取得を目指す準備では、「介護機器の導入」「スタッフの業務分担」「委員会の設置」「実績データの報告」が特にポイントになります。介護テクノロジー未導入の事業所が、介護テクノロジーを活用した生産性向上を目的に委員会を設置する場合、委員会は「補助金の活用」と「加算の取得」につながる役割を果たすことができます。一方、介護テクノロジーを既に導入している場合は、以下の検討事項の実施状況に対し、業務効率化を図ることが求められています。そのため、介護テクノロジーの導入前だけでなく、導入後も委員会の役割は非常に重要なものになります。

■ 生産性向上委員会の設置ー運営におけるエッセンス

 委員会を設置する際、メンバーは経営層だけでなく、ケアを行うスタッフを含む幅広い職種やユニットリーダーなどの参画がポイントになります。そして、委員会にチーム制を導入することで、メンバーが義務的に「集まる場」から、小規模なチームに分かれて「考える場」へと転換することが可能です。

 新たな委員会の設置やチーム制の運営に関しては、この他にも様々な委員会の設置が義務付けられている中で、さらなる業務負担増や生産性向上の妨げになることを懸念する声も聞かれます。しかし、委員会は加算取得のための形式的な組織ではなく、生産性向上を図るための業務改善推進に欠かせない体制を築くうえで重要な位置づけにあることを理解することが大切です。 委員会の運営やチーム制を進める上では、 参加者を支え、縁の下の力持ちとなる「支援-促し役」の存在が不可欠となります(下図)。

 チーム制を導入するメリットは、「記録業務の効率化」「移乗介助の負担軽減」「備品管理の改善」など、特定のテーマや課題に集中して取り組める点です。メンバー構成は、それぞれの得意分野や興味のある課題に応じて編成します。例えば、ICT に詳しいスタッフ、特定のケアに長けたスタッフ、事務処理に明るいスタッフなどが集まることで、多様な視点と専門知識が結集し、より効果的なソリューションが生まれやすくなります。

 大人数での会議よりも、少人数でのチームミーティングの方が、機動的に開催でき、意思決定も迅速に行えます。 また、各チームに責任感と当事者意識が芽生え、誰が何を行うべきかが明確になることで曖昧さが減り、実行へのスピードが上がります。意見が反映されやすい少人数のチームで活動することで、スタッフは他人事ではなく参加意欲が高まり、モチベーション向上に直結します。 メンバー間の調整や進捗管理などを経験することで、次世代の管理者育成にもつながる点もメリットに挙げられます。

 生産性向上委員会と各チームにおける目標設定と、目標達成に対する報酬は、委員会の実効性を高め、モチベーションを維持するための重要な要素です。目標設定は、例えば「タブレット導入により介護記録にかかる時間を 1日あたり30分削減する(〇ヶ月以内)」や「〇年度中に生産性向上推進体制加算の要件を満たして加算を取得する」など、達成された成果が明確で、期限が設定されていることが重要になります。目標達成の報酬はスタッフの努力を正当に評価し、今後の活動への意欲を高めるために効果的です。給与アップやボーナスといった金銭的な報酬だけでなく、福利厚生や表彰などの非金銭的な報酬を組み合わせるのも一案でしょう。委員会設置と目標設定は、経営者と現場スタッフのベクトルを合わせる強力な推進力となり、組織力を高めることにつながります。

[II]介護テクノロジーの導入効果と取り組み強化のポイント

■ 介護テクノロジーの導入効果と導入支援補助金の活用

 今後ますます介護人材の確保が困難になると予想される中、スタッフの業務負担の軽減や職場環境の改善への取り組み強化は欠かせません。業務効率化によって生み出した時間を直接的な介護ケア業務に充て、介護サービスの質の向上につなげることで、介護現場の生産性向上を一層推進していく上で、 「介護テクノロジー導入支援補助金」の積極的な活用が望まれています。補助金の活用にあたっては、各都道府県の募集枠や募集期間などの情報収集を行い、「生産性向上委員会」のメイン議題として取り扱うとともに、「生産性向上推進体制加算」の取得につなげていくことがポイントになります。

 介護テクノロジーの導入は、単なる機器の選定に留まらず、介護現場の働き方を根本的に変革し、利用者と介護者の双方にとってより良い未来を築くための重要な投資となります。機器選定においては、補助金受給や製品ありきではなく、導入によって得られる効果から掘り下げて検討するプロセスが重要です。実際に介護テクノロジーを導入している施設-事業所の導入効果は以下が挙げられています。いずれの効果も短期的に成果が出ることは少なく、中長期的な視点が必要となります。また、実際に利用するスタッフが納得し、自らの意識や行動が伴わなければ導入の成果は期待できない点を、経営者は肝に銘じておかなければなりません。

 介護テクノロジーを導入する意義は、スタッフの負担軽減を図りながら、介護事業者の本来の目的である利用者満足度や介護サービスの質を高めることにあります。経営者とスタッフのベクトルを合わせ、より良い職場環境づくりを進めていく上で「生産性向上委員会」の設置-運営が鍵を握るでしょう。

■ 生産性向上に向けた取り組みを強化するポイント

 最後に、介護テクノロジーを活用した介護現場の生産性向上に向けた取り組みを強化するうえでのポイントを整理します。介護テクノロジーの活用による業務の改善や効率化は、スタッフの業務負担の軽減を図るとともに、創出された時間を直接的な介護ケア業務に充て、利用者とスタッフが接する時間を増やすなど、介護サービスの質の向上につなげていくことが重要になります。

 生産性向上の取り組みで悩んだ際や、さらに取り組みを加速したい場合に、介護事業者が参考にすべき情報が「生産性向上ガイドライン」です(下図)。ガイドラインは、生産性向上の経験がない事業所の導入を手助けする道案内に位置づけられ、手引書として活用できます。このガイドラインに沿った業務改善活動は「生産性向上推進体制加算」取得の必須要件となっているため、加算取得に向けたマニュアルとしてはもちろん、介護テクノロジー導入後においても様々な資材やツールを活用していくことが重要です。

 加えて、都道府県の「介護生産性向上推進総合事業」を積極的に活用することも重要です。この事業では、介護人材の確保-処遇改善、介護テクノロジーの導入、生産性向上に資する様々な支援-施策を総合的かつ横断的に、一括して取り扱っています。

 この事業の中核となる「介護生産性向上総合相談センター」では、介護テクノロジーを活用した生産性向上に関する取り組みの推進に加え、人材確保に関する各種事業などとも連携しながら、介護事業者に対してワンストップ型の支援を実施しています。例えば、以下のような場面があれば、活用することが可能です。

 「介護生産性向上総合相談センター」では、①相談窓口の設置、②伴走支援、③機器の展示、④機器の試用貸出、⑤研修会の開催、⑥情報収集-提供を主な事業内容としています(下図)。「介護生産性向上総合相談センター」は、生産性向上の取り組みにおける多くの疑問や課題に対し、包括的かつ実践的な支援を提供してくれるワンストップ拠点として、介護現場の「困った」を解決し、「もっと良くしたい」を下支えする心強い味方だと言えるでしょう。

 注意点として、各都道府県では「〇〇県 介護生産性向上総合相談センター」の名称を使わず、独自の名称やサポートデスク等の類似名称で運用していたり、財源と人材の確保が難航して未設置のケースもあります(2026 年度までに全都道府県で設置予定) 。また、相談内容によっては「介護生産性向上総合相談センター」では対応できない場合もあります。しかし、その場合でもワンストップ拠点として専門機関を別途紹介してもらえるため、遠慮せずに問い合わせることで、解決の糸口を見つけ、問題解決へとつなげていくことが可能です。介護事業者は、各都道府県のセンター設置に関する動向をはじめ、今後センターから公表される情報に注視しながら、 積極的に活用していきましょう。

▼今月号の考察

 今回は、生産性向上の実現に向けた「生産性向上委員会」の設置-運営のポイント、関連する「介護テクノロジー導入支援補助金」や「介護生産性向上総合支援センター」の活用について整理しました。介護経営において生産性向上は重要なキーワードであり、 「生産性向上委員会」の設置を契機に、介護テクノロジーを導入して生産性向上の取り組みを強化していくことが介護事業者に求められています。 以上、 組織力を高めていく一助としてご活用頂ければ幸いです。

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