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ヘルスケア最新情報TOPIX「介護編」2025.8月号


「【人材×DX前編】人材確保・育成と職場環境の改善」

 今月号では、政府が2025年6月に閣議決定した骨太方針2025をはじめとする国家戦略をもとに、介護分野の重点施策として示された人材確保とDX活用のポイントについて、「Ⅰ.国家戦略の重要施策と位置づけられた人材×DXの関係」を整理し、「Ⅱ.人材確保・育成と職場環境の改善のチェックポイント」を確認していきます。後編では、介護DXの詳細な解説を予定しております。

 参院選後の少数与党の政局は混乱が懸念される状況ですが、介護分野の「人材確保とDX活用の喫緊の課題」や「中長期的な展望」に対する政策軸は、与野党ともに異論は少なく、大きな方針転換はないといえます。国家戦略の方向性を踏まえ、介護事業者は、漠然と身構えるのではなく、人材確保とDX活用に向けた各職種のタスクを洗い出し、1つずつクリアしていくことが大切です。

【確認keyword】
「補助金や介護報酬の枠組みのフル活用」「テクノロジー活用による働きやすさの改善」「介護テクノロジー導入の転換期」「各種ガイドラインが介護テクノロジー対応に刷新」

[Ⅰ]国家戦略の重要施策と位置づけられた人材×DXの関係

 介護事業者の課題である「人材確保・育成・働きやすい職場環境の改善」と「デジタル化への対応・介護テクノロジーの活用」は、相互に深く関連しています。国家戦略上の重要な施策として位置づけられた【人材×DX】は、介護現場の生産性向上とケアの質向上につながり、持続可能で質の高い介護サービスの提供に不可欠な要素となります(下図)。そして、どちらか一方を補強すればよいのではなく、互いを補完し合うことで、より大きな相乗効果を生み出し、この好循環を確立することが重要な経営戦略となります。

 介護事業者は、経営基盤の強化に欠かせない【人材×DX】の積極的な活用が求められます。現在の取り組み状況を再確認したうえで、職種別のタスクを明確にしていけば、取り組みの実効性を高め、組織全体での推進体制を強化できるでしょう。

[II]人材確保・育成と職場環境の改善のチェックポイント

 「人材確保・育成と働きやすい職場環境の改善」は、介護経営を左右する最も重要な課題です。その整備には、以下の4項目における各職種の具体的なタスク管理が鍵を握り、すべての職種が独立して動くのではなく、「管理者」が方針を打ち出して、「ICT担当」が仕組みを整備し、「現場職員」と「ケアマネジャー」が実務として運用していく一体感がポイントになります。介護テクノロジーやシステムは、導入後の運用・習熟・継続改善があって効果が発揮されるため、各人が当事者意識を持っていくことが大切です。

【1】「賃金向上と処遇改善」のタスク管理

 介護分野は、2040年までに約57万人の介護職員が新たに必要と推計され、現状でも全職業平均を上回る有効求人倍率が続くなど、深刻な人材不足に直面しています。このような状況下において、職員の離職防止と職場定着を図るうえで、国家戦略として賃上げが推進されています。介護事業者が賃上げの恩恵を受けるには、補助金や介護報酬の枠組みをフル活用していくことがポイントになります。

□【Check1-1】処遇改善加算を活用して、人材への再分配に適合しているか?

 政府は、物価上昇を上回る賃金上昇を実現するため、国が先導役となって賃金の引き上げに取り組むことを強調しています。処遇改善加算の取得により、他産業との人材確保競争が激化する中でも、介護現場で働く方々の処遇改善が図られ、人件費の確保が可能です。少子高齢社会における介護人材の確保は、我が国の社会保障制度の維持に直結する国家的課題であり、加算取得による人材への再分配の仕組みは今後もしばらく継続されると予想されます。加算取得済の際は、配分ルールの見直しや報告義務が厳格化されていることから、その場しのぎの不備がないかを確認し、改善していきましょう。

□【Check1-2】各種補助金の活用を検討、生産性向上委員会を設置しているか?

 「介護人材確保・職場環境改善等事業」による介護職員に対する生産性向上の支援の活用のみならず、中小企業向けの「省力化投資補助金」における介護職員以外の業務負担軽減に資する汎用機器(とろみ給茶機や再加熱カートなど)にも補助対象が拡大された点にも注目です。介護テクノロジーを活用した継続的な業務改善の取り組みを評価する「生産性向上推進体制加算」は、事業所内に「生産性向上委員会」を設置し、利用者の安全・介護サービスの質の確保・職員の負担軽減に資する方策の実施を評価するものです。「生産性向上委員会」の設置は、生産性向上を成し遂げるための重要な手段であり、加算に関与しなくとも組織力の強化に寄与する取り組みとして設置していきましょう。

【2】「多様な働き方の推進」のタスク管理

 介護人材の定着と確保には、「働きがい」とともに「働きやすさ」の実現も不可欠であり、柔軟な働き方を可能にする環境整備が必要となります。 テクノロジー活用による「働きやすさ」の改善は、介護業界のイメージを向上させ、新たな人材を惹きつける魅力となる点に着目して、国家戦略としてテクノロジー導入支援が推進されています。

□【Check2-1】働きやすさを改善する介護テクノロジーの意義を理解しているか?

 介護事業者のテクノロジー導入は、田畑を手作業で耕していた農家がトラクターを導入するようなものです。トラクター(テクノロジー)を導入することで、手作業(従来の業務)で大変だった手作業(介護業務)がはるかに楽になり、より短時間で、そしてより広大な面積を効率的に耕せるようになります。その結果、農家(介護職員)の身体的負担は減り、仕事の満足度が向上し、新しい若い世代も農業(介護)に魅力を感じるようになります。さらに、余った時間で土壌改良や新しい作物の研究(直接ケアの充実やスキルアップ)ができるようになり、田畑全体の生産性(介護サービスの質と持続可能性)が向上する相乗効果が期待されています。改めて、介護テクノロジーの導入を本格的に熟考しなければならない転換期を迎えていることを再認識しなければなりません。

□【Check2-2】ケアの質の向上と標準化、採用競争力の強化に対応しているか?

 介護テクノロジーの導入により、職員は負担が軽減されることで、利用者一人ひとりに対してより丁寧で質の高いケアを提供できるようになります。また、AIによるデータ分析やケア内容の提案は、職員の経験やスキルに依存せず、質の高いケアの標準化を促進し、兆候の見落としリスクを低減します。テクノロジーを積極的に導入し、働きやすい環境を整備している事業所は、介護業界の「きつい・つらい」といった従来のイメージを払拭し、特に若年層や異業種からの新たな人材を惹きつける魅力的な職場となります。採用競争力を高め、人材不足の解消に貢献し、介護人材の定着と確保が実現します。

【3】「人材育成とスキルアップ」のタスク管理

 デジタル化の進展は、介護人材に新たなスキルを求めると同時に、キャリアアップの機会を創出します。介護テクノロジーやシステムの導入は、単なる機材購入では終わらず、日々の運用を支える人材があって成り立つため、育成とスキルアップも重要です。

□【Check3-1】アドバンスト・エッセンシャルワーカーの育成を検討しているか?

 介護事業における「アドバンスト・エッセンシャルワーカー(AEW)」は、デジタル技術を活用して介護の質を向上させ、介護現場の負担を軽減する上で重要な役割を担います。今後、介護業界ではAEWの育成・確保が、より一層重要になります。AEWは「デジタル中核人材」による支援を受けて育つ現場の先進実践者と位置付けられます。

□【Check3-2】デジタル中核人材による伴走支援の活用を検討しているか?

 介護現場にテクノロジー導入・活用を主導できる「デジタル中核人材」の育成研修が国や自治体によって行われています。養成された「デジタル中核人材」はアドバイザーとして介護現場に派遣・活用され、介護テクノロジー導入の伴走支援を実施することで、現場のデジタル化を強力に後押しします。支援を必要としていれば、ワンストップの相談窓口「介護生産性向上総合相談センター(都道府県設置) 」を活用していきましょう。

【4】「業務改善ガイドラインの活用」のタスク管理

 介護現場の業務効率化と質の向上を図るため、ガイドラインの周知や好事例の横展開を参考にしつつ、押し寄せるデジタル化の波に柔軟に対応していかなければなりません。

□【Check4-1】介護テクノロジーに対応したガイドラインを再確認しているか?

 業務改善ガイドライン自体は通称になりますが、「生産性向上に資するガイドライン(2025年改訂予定)」や「協働化・大規模化ガイドライン(2025年度策定予定)」など、各種ガイドラインが介護テクノロジーを活用した内容へと刷新されていきます。既存の記録や作成の業務手順など、抜本的に変わる事項についての再確認が不可欠です。

□【Check4-2】デジタル化に係る制度やシステムの見直しに対応しているか?

 2026年度から国のデジタル・ガバメント戦略の一環として、全ての自治体で「電子申請・届出システム」の利用が原則化されます。介護DXのみならず自治体DXによって、業務全体の効率化・標準化の仕組みが今後広がっていく点に注視していきましょう。

▼今月号の考察

 今回(前編)は、骨太方針2025などの国家戦略を踏まえ、介護分野の重点施策として示された人材確保とDX活用のポイントのうち、人材確保の切り口で各職種のタスクを整理しました。職種別の役割が明確になることで、取り組みへの実効性を高め、組織全体の推進体制の強化が期待できます。以上、今後の取り組みの一助として参考にしていただければ幸いです。

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