ヘルスケア最新情報TOPIX「介護編」2025.9月号
「【人材×DX後編】デジタル対応とテクノロジー活用」
今月号では、政府が2025年6月に閣議決定した国家戦略をもとに、介護分野の重点施策として示された人材確保とDX活用のポイントについて、「Ⅰ.人材×DXの相乗効果、DX活用による好影響と期待効果」を整理し、「Ⅱ.デジタル対応・テクノロジー活用のチェックポイント」を確認していきます。「全国医療情報プラットフォーム」の一翼を成す「介護情報基盤」への対応は最重要課題であり、介護DXの実現に向けて大きく舵が切られた点に注目です。介護事業者は、人材確保のタスク管理とともに、DX活用に向けたタスクを洗い出し、1つずつクリアしていきましょう。
【確認keyword】
「2026年度から電子申請・届出システムが開始」「介護テクノロジー活用の鍵は導入前後の取り組み」「全国医療情報プラットフォームの一翼を成す介護情報基盤への対応」
[Ⅰ]人材×DXの相乗効果、DX活用による好影響と期待効果
介護事業における「人材確保・育成・働きやすい職場環境の改善」と「デジタル化への対応・介護テクノロジーの活用」は、相互に深く関連し、介護現場の生産性向上と持続可能で質の高い介護サービスの提供に不可欠な要素となっています(下図)。これらの施策は、介護現場の喫緊の課題への対応策であり、互いに補強し合う好循環を確立していくことが重要な経営戦略となります。
今回、クローズアップした「デジタル化への対応・介護テクノロジーの活用」は、介護現場の業務負担を軽減し、職場環境の改善と人材定着を促進します。業務負担の軽減では、ICTや介護ロボットにより、記録・請求・移乗・巡視などの負担が軽減され、離職防止につながります。ケアの質とやりがいの向上により、利用者との関わりが深まり、職員のやりがいも増します。業務分担の工夫次第では、柔軟な働き方が可能になり、多様な人材の活躍が広がり、多様な働き方を実現していけるでしょう。

[II]デジタル対応・テクノロジー活用のチェックポイント
「デジタル化への対応」と「介護テクノロジーの活用」は、生産性向上や人材不足の対策に欠かせず、そして「制度対応」を一体的に進めることが重要になります(下図)。介護現場では、サービスの質向上と職員の負担軽減を目指し、デジタル技術の導入と業務効率化を推進していくことが不可避となっています。これは、直接的な利用者へのケアのみならず、非介護職員の間接的な事務作業も含めて、幅広い業務領域でのデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が欠かせないことを意味します。

【1】「デジタル化への対応」のタスク管理
2026年度から全ての自治体で「電子申請・届出システム」の使用が原則化され、介護保険法に基づく指定申請等の手続き関係も、例外なくデジタル化に変更されます。
「デジタル化への対応」では、自治体DXにおける行政手続きの効率化、データ連携の推進、情報システムの最適化、そして「介護情報基盤」の構築を通じて、介護サービス提供の持続可能性と利便性の向上を目指している点を押さえておくことが肝要です。

□【Check1-1】「電子申請・届出システム」への対応に不備はないか?
デジタル化の導入にあたり、アナログからデジタルへの切り替えには、どうしても当事者である介護事業者に負荷がかかりますが、介護保険に携わる全ての方々がデジタル化のメリットを享受するには、介護事業者の参画が必須であることを再認識しなければなりません。現在、紙で提出している各種申請書や届出書の様式が、電子システム上でどのようになるかの確認が必要です。なお、経営データの報告義務化により取得した「GビズID」は、この自治体DXにおいても使用されます。ただし、ごく一部の自治体で「GビズID」を使用せずに、独自のシステムで運用する可能性もゼロではありません。最終的には、各自治体のWebサイトや通知で実施時期も含めて確認していく必要があります。
□【Check1-2】「データ」を自事業所の生産性向上や経営改善につなげているか?
電子申請や経営データ報告の情報は、提出用のみならず、「データ」として生産性向上や経営改善につなげていくか、活用の視点が重要です。電子化された「データ」は、効率化の恩恵を最大限に享受しつつ、さらに一歩進んだ経営を行うために、厚労省が横展開を図る先進事例(介護生産性向上推進総合事業)とのデータ比較を用いて客観視できるでしょう。そして、生産性向上や経営改善を進めていくうえで、データ分析では得られない、成功事例の実地確認や同業他施設への見学なども重要なアプローチになります。
【2】「介護テクノロジーの活用」のタスク管理
介護テクノロジーの導入は、介護職員の業務負担軽減と、それによって生まれた時間を直接的な介護ケアや職員の休憩・研修に充てることで、介護サービスの質向上・確保を目指しています。介護分野の最終的なアウトカム指標には、離職率の変化、人員配置の柔軟化、生産性向上の成果としての残業時間の減少や有給休暇取得日数の増加などが含まれ、これらは働きやすさの改善を通じた介護人材の確保・定着とサービスの質向上につながります。介護テクノロジーを「事業所の持続的な成長と利用者・職員の幸福に貢献する戦略的なツール」として活用するには、導入前後の取り組みが鍵を握ります。

□【Check2-1】導入前:デジタル機器・システムの導入目的は明確であるか?
介護テクノロジーやシステムの導入は、単なる機材購入ではありません。最も重要なのは、「なぜ導入するのか」「何を実現したいのか」という目的を明確にすることです。漠然とした業務効率化ではなく、「記録時間の20%削減」とか「夜間巡回負担の半減」といった具体的な数値目標を設定し、それを経営層から現場職員まで全員で共有して取り組みましょう。導入時は、段階的に導入して小規模な試験運用で課題を見つけ、職員へ丁寧に教育し、操作方法だけでなく、導入目的やメリットを伝えてモチベーションを高めていきます。そして、既存の業務フローの見直しには、サポート体制(担当者、マニュアル、Q&Aなど)が欠かせません。安心して使える環境を作るには、経営層が積極的に関わり、導入推進への姿勢を示していくことが肝要です。
□【Check2-2】導入後:効果測定と継続的な改善活動は実施できているか?
テクノロジーは導入したら終わりではありません。設定した目標が達成されているか、新たな課題がないかを定期的に検証し、継続的に改善するプロセスが不可欠です。効果測定では、導入前に設定した数値目標に基づき、データを集めて目標達成度を評価します。利用者満足度や職員の働きがいといった定性的な効果も把握しましょう。そして、実際にテクノロジーを使っている職員から、定期的に使い勝手や改善点などの聞き取りを行い、小さな気づきに耳を傾けます。効果測定やフィードバックから見つかった課題に対しては、システムベンダーへの相談、設定変更、追加研修、業務フローの再調整など、具体的な改善策を迅速に実行していきます。PDCAサイクルを実践しながら、テクノロジーが常に事業所のニーズに合うよう最適化していくことがポイントになります。
【3】「介護情報基盤の制度対応」に向けたタスク管理
「全国医療情報プラットフォーム」の一翼を成す「介護情報基盤」への対応は、今後最も注目すべき動向であり、準備を進めるべき重要課題となります。介護テクノロジーの導入は、介護情報基盤に対応し、介護政策の大きな流れに乗るための前提条件であり、今後の介護事業者の持続可能性を左右する戦略的な投資と認識しなければなりません。

□【Check3-1】介護情報基盤への対応はベンダー確認が必須。いつ確認するか?
2026年4月1日以降、介護情報基盤を通じた情報共有が開始されます(下図)。

ただし、一斉開始ではなく、介護情報基盤の標準化対応が完了した市区町村から順次、情報共有が開始となります。そして、2028年4月1日に全ての市区町村において、現行の介護保険システムから介護情報基盤へのデータ移行を含めて完了し、介護情報基盤の活用を開始することを目指しています。介護情報基盤にアクセスし、利用者の介護情報を閲覧する際に主要な窓口となるのが「介護保険資格確認等WEBサービス(介護WEBサービス)」であり、介護保険証情報、要介護認定情報、ケアプラン情報、LIFE情報など、様々な介護関連情報にアクセスできるようになります。これにより、市区町村への電話での問い合わせや、紙での情報提供依頼・受け取りが不要となり、業務の効率化が図られます。介護DXへの対応は、現在利用している介護ソフトやシステムのベンダーに対して、介護情報基盤への対応状況や連携計画についての確認が欠かせません。
□【Check3-2】いつケアプランデータ連携システムを導入するか?(該当事業者限定)
「ケアプランデータ連携システム」が、介護情報基盤の一部の機能として統合され、「介護WEBサービス」を通じた利用に変更される見通しとなりました。これにより「ケアプランデータ連携システム」の導入が事実上必須になった点に注目です。統合後は「介護Webサービス」上で一元的に介護情報にアクセスでき、業務効率化、介護事業所間の連携強化、情報共有の促進、質の向上が図られます。今後の情報に注視していきましょう。
▼今月号の考察
今回は、政府の国家戦略を踏まえ、介護分野の重点施策として示された人材確保とDX活用のポイントのうち、介護DXに関連する各職種のタスク管理を整理しました。介護情報基盤への対応は最重要課題であり、介護DXの実現に向けて大きく舵が切られた点に着目し、対応していかなければなりません。以上、今後の取り組みの一助として参考にしていただければ幸いです。
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