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ヘルスケア最新情報TOPIX「介護編」2025.11月号


DX化がもたらす運営指導の転換点と着眼点

 今月号では、介護事業者の介護サービスの質向上や運営体制に関わる「Ⅰ.運営指導の基本事項と新たな転換点」を整理して「Ⅱ.運営指導の対策ポイントと着眼点」を確認していきます。

 介護DXと自治体DXの推進に伴い、自治体でのデータ解析が容易になり、「運営指導」の変更点は時間短縮の効率化だけでなく、これまでにない指導の強化が実現されつつあります。介護事業者は、DX化に伴う「運営指導」が、従来の「実地での書類の有無の確認」から「データと実態の整合性の確認」へとシフトしてきた着眼点の変化を踏まえ、対策を練っていくことが不可欠です。

【確認keyword】
「DX化による運営指導の精度の劇的な向上」「実地での目視確認の意義」「ケアマネジメントプロセスの本質」「提出データに対する体制整備と実効性」「運営指導から監査へ変更」

[Ⅰ]運営指導の基本事項と新たな転換点

 「運営指導」は、介護事業者毎に介護サービスの質、運営体制、介護報酬請求の実施状況等を確認する「面談形式」で行われ、次の3つの指導形態で構成されています(下図)。指導の実施頻度は、指定等の有効期間の6年内に少なくとも1回以上、施設・居住系サービスにおいては3年に1回以上となっています。

 「運営指導」は、標準化された「確認項目及び確認文書」と「自己点検シート」の活用により、効率的・体系的な指導が実施されてきました。しかし現在、指導の様相は決定的な転換点を迎えています。介護DXによる介護記録の電子化と、自治体DXによる行政データベース(介護経営情報、LIFEデータ、国保連データなど)の連携が進んだことで、データに基づいた「事業所リスクの可視化」が可能となりました。この結果、全事業所一律の指導ではなく、法令違反や不正請求の疑義が高い事業所をピンポイントで抽出できるようになり、指導の精度は劇的に向上しています。経営者は、このDX化の流れを的確に捉え、指導上のリスクを回避するとともに、健全な経営と運営体制をデータで証明するため、DXへの取り組みを最重要の経営戦略として推進することが不可欠です。

[II]運営指導の対策ポイントと着眼点

■ 運営指導【①介護サービスの実施状況指導】のポイント

 【①介護サービスの実施状況指導】では、実際のサービスが法令通知に基づき適正に行われ、利用者の尊厳を守り、自立支援に資するサービスが行われているか等、主に「個別サービスの質を確認する事項」について、実地での確認が行われます。運営指導マニュアルで定められた「確認項目及び確認文書」に基づき、管理者等からの説明が求められるほか、利用者個人に関わる様々な情報を取り扱うため、現地確認が原則となります。

▼実地での「目視」による確認の意義

 「確認項目及び確認文書」によるサービス実施の確認のほか、特に施設系サービスや居住系サービス、通所系サービスでは、利用者の生活実態を把握するため、サービスの質の確保の確認として、高齢者虐待及び不適切な身体的拘束等の発見や防止について、指導担当者が現場で実態を目視し、関係者からの状況の聴取において確認されます。

 具体的には、「確認項目」に施設・設備の項目があるサービスでは、「確認文書」である「平面図」を見ながら変更部分がないか、災害時の避難経路が確保できているか等、内部巡回による目視で確認が行われます。これは時間帯や利用者の都合にもよりますが、運営指導の冒頭に行われるのが通常です。指導では実際と「平面図」が異なる場合や必須設備に不備があるかを確認し、巡回の際に利用者の生活実態の確認が重視されます。これは、利用者の尊厳の保持、虐待や身体的拘束等の確認であり、衛生管理面では清潔空間と汚染空間の区別を意識し、感染症伝播を防ぐ対策がなされているかが目視で確認されます。【②最低基準等運営体制指導】でも感染症対策の義務化への対応等として求められています。

▼ケアマネジメント・プロセスの本質

 「確認文書」に掲げられている個人の情報が記載されている書類等の確認では、すべての書類が揃っているか、有無を確認するというより、一人の利用者に対し、利用におけるサービスの説明事項や、サービス毎の計画が作成される中で、それに基づきサービスが提供される一連のケアマネジメント・プロセスを確認し、それが適切であるか否かが問われています。これらの点を確認するため、巡回で気になった利用者など3名程度(居宅介護支援事業所では介護支援専門員あたり1~2名程度)を抽出し、関係する一連の文書についての確認が重視されます。

 特に「LIFE関連加算」を算定している場合、利用者への適切なアセスメントに基づき、LIFEへのデータ提出とそのフィードバックをケアプランに反映させるPDCAサイクルが回っているかが問われます。ケアマネジメント・プロセスは「適切なケアマネジメント手法の手引き」をベースに、複数の利用者すべてが同じサービス内容になっている画一的な計画に対し、厳格なチェックが行われます。指導対策の観点では、ケアマネジメント手法の理解を前提に、ケアマネジメントの質の確保とその実践が問われている点を再認識しなければなりません。

■ 運営指導【②最低基準等運営体制指導】のポイント

 【②最低基準等運営体制指導】は、サービス種別毎の基準等に規定する運営体制を確認する指導と位置づけられます。主に「個別サービスの質を確保するための体制に関する事項」について確認し、必要な指導が行われます。この指導でも「確認項目及び確認文書」により運営体制の確認を実地で行うことを想定していますが、実地に限定せず、オンライン会議システム等を活用した指導が可能となっています。

 指導内容は、介護事業者がそれぞれのサービスを行う上で、実際にどのような体制を構築し、しっかり実行できているか、という観点から確認します。具体的には、サービスを行う上で守るべき最低基準といえる主に人員や運営に関して「確認項目及び確認文書」に基づき実態が確認されます。確認が求められた際には、記録があれば客観的に正当性を主張でき得るため、記録の整備と再点検が重要だといえるでしょう。

▼提出データに対する体制整備と実効性

 最も注視すべき点は、2025年1~3月に開始された「介護経営情報データの報告義務化」への対応です。報告義務化の主な目的の一つは、介護事業者の経営実態の透明化であり、運営指導では報告された経営情報に「虚偽報告」や「架空計上」がないかの確認が重点化されます。適正な財務諸表を作成し、企業活動の結果を正確に把握することは健全な運営を行ううえで重要です。日々の健全な運営を行う努力は、結果として運営指導の対策につながるため、適正な会計処理と正確な実務記録の徹底を図っていきましょう。

 また、介護DXの基盤づくりが進められる、LIFE(科学的介護情報システム)へのデータ提出体制の構築と、提出データに基づくサービスの質の向上への取り組みも、体制指導の重要な確認事項となっています。「介護経営情報データの報告義務化」と同様に、LIFEのデータも行政側が事前に分析し、指導の重点項目を絞り込む材料となります。LIFEへのデータ提出は、単なる加算要件ではなく、科学的根拠に基づきサービスの質を確保するための体制の一環として位置づけられます。特に「LIFE関連加算」を算定している場合、データの継続的な提出状況や、データ分析結果をケアに反映させるPDCAサイクルが組織的に機能しているか、実効性が問われる点に留意しなければなりません。

▼BCP策定後の取り組みが問われる体制

 2024年4月1日から義務化となった「感染症対策」と「業務継続に向けた取組」への対応も実効性に着目していく必要があります。特に「年1回以上の訓練の実施記録」と、その訓練結果を踏まえた「BCPの継続的な見直し」に対する確認が重視されます。重視される理由は、利用者の多くが日常生活や健康管理・維持の大部分を介護サービスに依存しているため、大地震や豪雨等の自然災害や感染症のパンデミックが発生し、通常通りの業務が困難になった場合、優先業務の実施が不可欠となるからです。

 BCPの策定は、厚労省が公表した雛形や様式のテンプレート、ガイドラインを活用することが効率よく作成を進める秘訣になります。BCPは、策定したら終わりではなく、委員会の開催、指針の整備、研修と訓練の実施により、BCPが確実に実践できる組織的な取組の強化が求められている点を再確認しておきましょう。

■ 運営指導【③報酬請求指導】のポイント

 【③報酬請求指導】は、報酬基準に基づく介護保険給付の適正な事務処理を支援し、要件に適合した加算に基づくサービスの実施を支援する指導と位置づけられます。これにより、「不正請求」の防止と制度管理の適正化を図ることを目的として、サービスの質の確保やよりよいケアの実現を目指しています。【②最低基準等運営体制指導】と同様に、オンライン会議システム等を活用した指導が可能となっています。

 具体的には、主として介護事業者が届出等で実施する各種加算に関する算定及び請求状況について確認が行われます。一部の「確認文書」を活用して確認される場合もありますが、基本的には基準等に定められている各種加算等の算定要件にかかる文書等により、その適合性が確認されます。介護報酬の基本報酬部分は、算定している単位数が実際のサービスに相応であるかが確認ポイントになり、【③報酬請求指導】は【①介護サービスの実施状況指導】に関連する事項も多く、同時に確認が求められる場合もあります。

 介護事業者の指定取り消しのうち、最も多いのが「不正請求」による処分です。経営赤字による倒産危機を避けるための悪質な請求事例もあれば、基準や要件を正しく理解せずに請求していたケースもあります。指導による発覚に限らず、利用者や家族・従業員等における公益通報から事態が明るみになることもあります。利用者とのやり取り等の経過をはじめ、各種情報は正確に記録し、文書として残しておくことが不可欠であり、記録がないと客観的に正当性を主張できない点を再認識しなければなりません。仮に、不正の誤解を招く請求が問われれば、説明できる適切な記録が必要になります。

■ 運営指導から監査へ変更される場合とその対策

 適切な運営を行っていれば「運営指導」から「監査」には至りませんが、「運営指導」を中止して直ちに「監査」へ変更される場合としては次の4つのケースがあります。指導過程で法令違反や不正等が明らかである場合はもとより、その疑いがある場合においても、それが事実であるかを確認する必要があることから「監査」が実施されます。

 「人員配置基準や運営基準」では、常勤管理者や生活相談員の不在などの配置員数の不足、実際に勤務していない場合のほか、出勤簿等を整備・保管ができていない場合や勤務状況が確認できない場合の違反に注意が必要です。特に、複数事業所併設のケースにおける管理のほか、法人代表・役員等であっても従事者としての勤務実態の管理がポイントになります。人員欠如減算に該当する場合や加算要件の不充足が判明した場合には、多額の返還が生じる恐れもあり、適切な算定となっているかは適宜点検を行うことが重要です。規模の大小に関係なく、返還が求められる違反が判明した場合には、資金繰りの悪化により事業継続に重大な支障が生じる恐れがあるため、日々の業務管理を適切に行う必要があります。そして、「不正請求・その他法令」関連では、無資格者によるサービス提供や実際には行っていない記録の作成、1人の従業員による複数利用者へ同時提供等の違反を慎まなければなりません。運営指導自体では直近の実績の確認に留まるものの、「不正請求」の場合には過去5年分の記録が確認されることから、サービス提供の根拠となる記録を確実に残し、保管を遵守していくことが極めて重要になります。

■ 指摘事項に対する指導方法と指導後の対応

 「運営指導」の終了後、行政機関の指導担当者間で結果を確認した後に、下記のような指導方法で指摘事項が伝達されます。行政による実際の運用等に多少の違いはありますが、指導方法の違いにより改善報告の有無があり、それに従う必要があります。

 「文書指導」が行われた場合には、期限を定めて改善報告が求められることになります。改善報告書の内容は、どのように改善を図ったのかという具体的な説明が問われるとともに、直ちに改善できない場合でも改善に向けた行動が確認される形となります。介護事業者においては、日頃から自己点検を徹底していくことが不可欠です。運営指導の対策を起点に、サービスの質向上や利用者の安全確保を再優先し、不適切な事項の改善に努めていくことで、健全な経営に欠かせない組織風土を醸成していけるでしょう。

▼今月号の考察

 今回は、介護DXなどの推進動向を踏まえつつ、運営指導における具体的な確認ポイントと指摘事項に対するエッセンスを確認しました。運営指導に向けた対策は、自治体HPに公表されている「自己点検シート」で定期的に確認することが不可欠です。実際の運営指導に対しては、運営の質を向上させるキッカケとして活用していく姿勢が重要になります。以上、事業者の健全な運営の取り組みやDXの強化を図る一助として、ご参考にしていただければ幸いです。

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