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ヘルスケア最新情報TOPIX「介護編」2025.12月号


リスクマネジメントの必要性と強化ポイント

 今月号では、介護事業者の介護サービスの質の向上や運営体制に関わる「Ⅰ.介護現場におけるリスクマネジメントの基本」を整理し、「Ⅱ.リスクマネジメント強化に向けた体制整備」を確認していきます。今回は、経営者・管理者と現場職員が押さえるべきリスクマネジメントの基本、体制整備やテクノロジー活用に関するポイントを整理しました。本編は、『介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン(介護保険最新情報 Vol.1436)』をもとに作成しており、より詳しい内容はガイドラインを参照しながらご活用いただければと思います。

【確認keyword】
「介護現場における事故の特性とリスク分類の重要性」「組織的にリスクマネジメントに取り組むポイント」「研修のエッセンスとサービス種別の重点事項」「介護テクノロジーの活用」

[Ⅰ]介護現場におけるリスクマネジメントの基本

■ リスクマネジメントの考え方・究極の目的

 介護事業者が提供するサービスは、高齢者本人の自立支援、尊厳の保持、自己決定の尊重という基本理念を実現し、利用者のQOL(生活の質)の向上を目指すものです。しかし、生活の場を提供する過程において、事故のリスクは不可避的に伴います。

 そこで重要となるのが、リスクマネジメントの取り組みです。これは、単に事故件数を減らすことではなく、事故を未然に防ぐための予防策(未然防止)を徹底し、万一事故が発生した際には迅速かつ適切に対応することで、高齢者が安心して質の高い介護サービスを利用できる環境を組織的に保障する取り組みになります。

 つまり、リスクマネジメントの究極の目的は、高齢者の尊厳を保持し、自立支援を実現する質の高いケアを保障することです(下図)。リスクマネジメントの実践においては、事故を「対策を取り得る事故」と「防ぐことが難しい事故」に仕分けし、組織全体で防止文化を醸成する体制整備が不可欠となります。

■ 介護現場における事故の特性とリスク分類の重要性

 介護現場でよく起きる事故は、転倒・転落、誤嚥・窒息、異食、誤薬・与薬漏れ、医療処置における事故、外出・送迎時の事故などがあります。その原因と対策の性質によって「対策を取り得る事故」と「防ぐことが難しい事故」に分類することが、効果的なリスクマネジメントの鍵となります。

 ▼「対策を取り得る事故」と「防ぐことが難しい事故」の仕分け 

 組織的な改善で防止可能な「対策を取り得る事故」は、職員のケア行為の不備や、施設・居宅の環境整備の不備(例:誤薬、手順のミス、環境整備不足による転倒など)、組織的な教育や研修、マニュアルの徹底によって防ぐことができる可能性が高い事故です。

 利用者の活動や加齢に伴う不可避的な「防ぐことが難しい事故」は、加齢による機能低下や、利用者自身の自発的な活動に伴い、自宅であっても発生し得る、予測困難で完全に防ぐことが難しい事故(例:予測困難な状況での転倒、摂食機能の低下に伴う不測の誤嚥など)が該当します。リスクマネジメントのポイントは、この二つを明確に仕分けし、「対策を取り得る事故」は徹底してゼロにするという意識で取り組むことです。

 ▼事故防止の徹底と利用者・家族への説明と合意形成 

 職員の過失による「対策を取り得る事故」を防ぐには、組織全体が「やるべきこと」を明確にし、質の高いケアを実現することが重要です。これにより、事業者側に過失のある事故の発生可能性を極めて低くすることができます。過去の裁判例にもあるように、介護現場で発生するすべての事故が、事業者の過失によるものではありません。予測が困難な事故があるという事実を、サービス開始時(契約時)に利用者本人および家族に対し十分に説明し、リスクと尊厳のバランスについて理解と合意を得ることが不可欠です。また、防ぐことが難しい事故であっても、被害を最小化するための対策は重要な取り組みです。高齢者のリスク評価とアセスメントを丁寧に行い、万一事故が発生したときに日常生活に支障をきたさないよう、環境整備や緊急対応体制を整えていきましょう

[II]リスクマネジメント強化に向けた体制整備

■ 組織的にリスクマネジメントに取り組むポイント

 リスクマネジメントは、個々の職員が単独で取り組んでも上手くいきません。リスクマネジメントに関する組織文化を醸成し、組織全体が一丸となってリスクマネジメントに取り組むことが重要です。組織文化の醸成のためには、体制整備に向けた理念や方針をトップが示し、研修を通して実践に落とし込むプロセスが必要となります(下図)。

 事故予防の体制整備に向けた取り組みを進めるには、経営者・管理者を中心とするトップダウンでの組織作りが有効です。その後、取り組みが職員の中に根付きはじめた段階からは、現場からのボトムアップによる改善提案を仕組みとして取り入れましょう。

 トップダウンによる体制整備、ボトムアップによる改善提案のいずれにも、リーダーや主任といった中間層の果たす役割が重要です。チーム全体の日々のケアや環境への気配り、現場の課題を管理者層に正しく伝える役割等が求められます。

■ 研修のエッセンスとサービス種別に応じた重点ポイント

 研修は、組織の方針を現場に浸透させ、職員の介護技術とリスク予知能力を向上させる重要なプロセスです。現場の実態に即した内容かつ継続的な学びの中に、安全なケアの実施に向けた注意点を織り込めば、リスクマネジメントを根付かせる機会となります。

 また、介護サービスの種別によってリスクが発生しやすい環境や場面が異なるため、各々の特性に応じた重点的なリスク管理が求められます。そして、職員自身が安心してサービスを提供できるよう、安全確保の視点も重要な確認ポイントになります。

■ 介護テクノロジーのリスクマネジメントへの活用

 介護テクノロジー(見守り機器、インカム、介護記録ソフトなど)の導入は、介護の質の向上、職員の負担軽減に大きく貢献していますが、介護現場における事故の防止や早期発見等においても非常に有効なツールとなります。ただし、介護テクノロジーを取り扱うのは人です。リスクマネジメントは職員の経験や知見、改善活動がベースとしてあることが大前提であり、活用目的を明確にし、介護テクノロジーに頼りきりにならないよう注意しながら活用していきましょう。

 経営者・管理者は、理念・方針を明確にし、テクノロジーと教育を統合した組織体制を整備する責務があります。現場職員は、日々のケアにおけるアセスメント力とヒヤリハットの報告を通じ、組織のPDCAサイクルを回す主体的な役割を担い、互いに共通理解を持ち、連携を深めることで、質の高い安全で安心な介護サービスの提供が可能です。

▼今月号の考察

 今回は、経営者・管理者と現場職員が押さえるべきリスクマネジメントの基本、体制整備やテクノロジー活用に関するポイントを整理しました。リスクマネジメントの取り組みは、利用者のみならず、経営者・管理者、現場職員を守るために不可欠です。以上、介護事業者のリスク管理の徹底や組織力の強化を図る一助として、お役立ていただければ幸いです。

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